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第185話 成人の儀 其の五十一★       ──見えない紅鎖──

   そんな小さな動きですら、高められた悦楽を拾ってしまって、香彩(かさい)は堪らず甘くて深い艶声を上げた。  無意識の内に紫雨(むらさめ)の動きに合わせて、香彩が腰を動かそうとする。ほんの僅かに動かしただけでも、訪れる深い法悦を味わおうとしたその刹那。 「とても上手なお強請(ねだ)りだ。正直に言ってとても唆るが……まだだ。いい子にしておいで、香彩」 「『動くな』……かさい」   まさにそれは同時だった。  揺らめく腰に置かれた紫雨の手から、香彩の動きを止める為に発動した術力と。  耳元で囁くように発せられた、竜紅人(りゅこうと)の竜の聲。  ふたつの『力』によって香彩は、まるで紅鎖に四肢を雁字搦めに地に括り付けられたような、そんな気分を味わっていた。  実際には紅鎖など存在しない。  だが明らかに動くことの出来なくなった身体に、香彩は戸惑いながらも次第に『自身の身体を自らの意思で動かすことが出来ない事実』に酔い痴れることとなった。  胎内(なか)は正直だ。  心内にある明らかな不安と明らかな期待が、二本の剛直を舐めしゃぶるように締め上げる。無意識の内にひくつく後蕾が剛直の根元を幾度も呑み込み、胎内(なか)の媚肉が蠕動して奥へ奥へと引き寄せる。  それはまるで見えない鎖酔いの様だった。  動きを封じられる、たったそれだけのことで、胎内(なか)で感じる快楽とはまた違った快楽が生まれ、香彩の若茎からは白濁混じりの蜜がとろとろと溢れ出る。  それは竜紅人(りゅこうと)の蒼色の衣着に落ち、濃い染みを作るのだ。 「あっ……ん」  そんな香彩の耳元に唇を寄せていた竜紅人は、宥めるように耳輪を軽く口に含みながらも、大丈夫だと優しく囁いた。  思念体である竜紅人にとって、香彩の強い思いが手に取るように分かってしまうのだろう。  動きを封じられたことに、深い悦びを感じてしまっていることも。  居た堪れないものを感じて、香彩の色付いた頬に更に朱が走る。  今更だろうと思う。  竜紅人には既に知られてしまっている。彼の真綿の鎖のような束縛と独占欲に縛られたいと思ったことも。紅紐で手首を縛られながら、姿見の前で目合(まぐわ)いたいと思ったことも。 「……りゅ……」  思わず竜紅人の名前を呼んでしまった、香彩のその声は酷く甘い。  「…ん?」と応えを返しながら、耳元に優しい接吻(くちづけ)を落とす竜紅人の、息の詰めた様子に香彩は気付く。  竜紅人もまた、胎内(なか)の媚肉の甘やかさに耐えているのだと。  そんなふたりの間を、ぬちゃりとした卑猥な水音が響いた。 「……あぁっ……!」  紫雨の剛直が再び何かを探るように動く。胎内(なか)の奥、結腸の蕾を亀頭でゆっくりと擦るように腰を回されて、香彩が深い艶声を上げた。  やがて紫雨の熱い昂りだけが、結腸の窄まりを通り抜け、更に奥まで入り込んでくる。

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