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第186話 成人の儀 其の五十ニ★       ──紋様──

 ゆっくり、と。  じっくり、と。  まるで具合を確かめるかのように、ぐうるりと腰を回されて、香彩(かさい)は呻くような喘ぎ声を上げた。  紫雨(むらさめ)がゆうるりと動く度に、ぐちゅりと音を立てるのは、胎内(なか)から溢れ出る淫水だ。  その音を楽しむかのように、くつくつと欲に掠れた官能的な低い声で、紫雨が笑った。 「胎内(ここ)も見事な隧道となった。喜んで四神(やつ)らが通るだろう。それに随分と胎内(ここ)の奥も随分と(こな)れたな。寝床には充分だ」  もっとも寝床になるのは四神(やつら)だけではないがな。さて、何処に潜んでおるのやら。  そう言いながら胎内の一番奥を、ぐうるりと剛直で掻き回した紫雨の腰が止まった。  再びぽたりと香彩の尾骶に落ちる仄暗い赫は、いつの間にかその窪みに水溜まりのように溜まっている。  その窪みの溜まりを始まりとして、紫雨は指と自身の血液を使って、香彩の腰にまあるく円を描いた。  不思議なことにそれは、仄かに光を帯びる。 「……宿」 「動……」  「……翔」  術力の籠った『力ある言葉』を発しながら紫雨は、円の中に紋様を描き入れていく。その繊細な指の動きすら、今の香彩に取っては情欲を誘う材料だ。  無意識の内に、きゅうと二本の剛直を胎内(なか)で食い締める。息を詰める竜紅人の、悦楽に歪む顔を見てしまって、香彩はなおさら肉棒の熱さを噛み締めるように、後蕾をひくつかせた。 「──(こう)……!」  『力ある言葉』の最後の韻を紫雨が結んだ、その刹那。  寝台の下の木床に、紅筆で大きく描かれていた四神の紋様のひとつ、玄武の陣が仄かに光を帯びたかと思うと、宙へと浮かび上がり、四つん這いになっている香彩の身体の高さで止まった。  それは香彩の腰に描かれた紋様と同じ物だ。まるで互いに呼応するように、香彩の腰の紋様と、浮かび上がった紋様が幾度か点滅する。  紫雨が放った『力ある言葉』は麾下へと下った式や式神の意識を呼び起こす為のものだ。陣が浮かび上がり、光を帯びた今、玄武の意識はこの陣の中に宿っているのも同然だった。  ふわりと辺りに漂う、水気にも雪気にも似た玄武の神気。 「……はっ……ぁ……」  冬の早朝にも似た、きんとした清らかな気配だというのに、香彩にとっては媚薬も同然だ。  紫雨も竜紅人も今は、腰の動きを止めている。ただただ感じるのは、胎内(なか)で食い締める二本の熱い滾りだけ。  穿たれただけで、今は何もされていない。  そして香彩自身もまた、術と竜の聲によって制限され、動くことが出来ない。  それだというのに。 「はっ……ん、ああっ……! ぁ……」  とろとろと蜜の溢れていた香彩の若茎から、びゅうと白い凝りが吐き出される。  淫らな色声は、荒く甘い吐息と共に、やがてか細くなりながらも、止まることを知らない。口の端から、つつと零れた唾液が艶かしくも竜紅人の胸の衣着に落ちた。

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