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第191話 成人の儀 其の五十七★                 ──光玉と牙痕──

「んっ……はぁっ、はぁ……も、む……りぃ……っ! いや、ぁ…あ、あっ、ああ……っん 」  過ぎる快楽は拷問でしかないのだと、悦楽に浸された頭のどこかで、香彩(かさい)はそんなことを思っていた。  色付いた唇からは、絶え間なく艶声と甘く荒い息が洩れる。  右臀に青龍の陣が描かれてから、紫雨(むらさめ)は香彩の右足を肩に掛け、大きく開かせた。  顕になった結合部分に、もう耐えられないとばかりに竜紅人(りゅこうと)の剛直が捩じ込まれる。先程よりも浅い挿入だったが、一度熱を吐き出したその剛直は、香彩にとってまさに媚薬の楔そのものだった。  二人の熱楔に翻弄される。  やがて注がれる青龍の光玉と濃厚な神気に、香彩はいやいやと(かぶり)を振った。喉は甘い嬌声を紡ぎ、快楽の渦が苦しいのか、荒い吐息と共に幾重にも涙を溢す。  だがまだ終わらないのだと、香彩は分かっていた。気持ち良すぎる絶望感に気が遠くなりながらも、気を失うことは許されない。  再び体勢が変わる。  今度は左臀を紫雨の前に晒した。  描かれたのは朱雀の陣だ。 「や、だ……っ!やっ、……やあぁっ!あ…、あっ、……も、む……りぃ……っ!いや、ぁ…んっ…… 」  香彩の嬌声はすでに泣き声に近い物になっていた。襲い来る過ぎた法悦に、啼きながら泣く。  紫雨と竜紅人(りゅこうと)の昂りは萎えることを知らなかった。香彩の啼く声に、どうしても煽られる。特に補食関係の頂点に立つ竜紅人は、本能でもある嗜虐心が擽られる。  横向きの体勢になっている香彩の、背中側から挿入していた竜紅人の眼前には、快楽に震える細くて白い肩があった。  朱雀の光玉が香彩の胎内(なか)に注がれるのを見計らうかのように、竜紅人はその肩に食らい付きながら熱を吐き出す。  堪らないのが香彩だった。 「痛……っ、いや、ぁ…! あ…、あっ、あ……っんあ、はぁっ…」  朱雀の光玉が神気の熱によって押し流され、『四神の眠り袋』に納まるまで、蜜壺の中を疼くような焦れるような快楽が続く。そして入り口を抉じ開けられる壮絶な法悦に、気を失ってしまえば楽になれるというのに、肩の痛みが現実(ここ)へと引き戻すのだ。  牙を立てられた肩が熱い。  喰らい付く竜紅人の、獣のような息遣いが熱い。  はぁ……、と。  荒い息を香彩の細い肩に吐き掛けるようにして、竜紅人が口を離す。ぽっかりと開いた二つの牙痕からは、一筋の赤い血が流れ出した。 「……あ……」   ぴちゃり、と。  音を立てて竜紅人の長い舌が、じっくりと赤い一筋を舐め取っていく。やがて傷口に辿り着いた舌が丁寧にそれを舐めれば、刹那の内に牙痕が治り、じりっとした痛みもまた消えていった。  

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