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第193話 成人の儀 其の五十九★ ──羨慕の情──
何よりも竜紅人 があの事件に巻き込まれた、一番の被害者だったのだ。あの事件があったから、竜紅人は香彩 の面倒を見、紫雨 を助けるようになったのだから。
(……だから……)
動けないようにした。
どうしようもなく錯乱状態になって、暴れてしまうことを恐れたのか。
あと一体だと。
だから耐えろと。
これが終われば、失くさずに済むのだと。
拘束に近い、絡み付く竜紅人の身体の体温が、そう言っているような気がして、香彩は無意識の内に竜紅人の熱さに縋る。
「……かさい……」
気付けば接吻 を強請るような、吐息が唇に触れるそんな近い場所に、紫雨の端正な顔があった。
ひくりと震え、喉の渇きとはまた違った渇きを覚え始めた喉が鳴る。
それは戦慄に近いもの。
やがて薄く開いた香彩の唇に、紫雨の熱い舌が入り込む。術者の血の味がする接吻 は、神気に浸された香彩の身体には、とても甘く感じられた。
歯列を舐め、やがて舌が絡み、軽く吸い上げられれば、尾骶が甘く疼き、胎内 の剛直を狂おしく締め上げる。二本の雄の存在を改めて感じて、粟立つ悦楽が背筋を駆け上がった。
そんな粟立つものの中に、やはり冷やりとした戦慄 かしさがある。
どんなに愛おしいのだと言わんばかりの優しい接吻 を、紫雨から贈られても、この体勢が過去を忘れさせてくれないのだ。
「……は、ぁ……っ」
名残惜しそうに紫雨の唇が離れる。
それでも情熱的な接吻 に、術者の血に、身体は熱くなった。
だが劣情の茹 だるような熱と、涔々と降り積もるかのような冷たい心の有り様。そんな真逆の感情に、心と身体が次第に散々 になっていく気がして、香彩は自分の顔のすぐ側にある竜紅人の腕に頬を寄せた。
それが縁 であると言わんばかりに。
「……か…さい……っ!」
どこか狂おしげに紫雨が、香彩の名前を呼んだ。
それは胎内 で締め付けられる熱楔の心地好さか、ぬるま湯にも似た蜜壺の淫蕩な善さか。
それとも目の前で竜紅人の熱に縋る、香彩に対する羨慕の情なのか。
ぐいと腰を使い、これでもかと言わんばかりに最奥の蜜壺に入り込む紫雨の熱楔に、香彩は啼く。
この薄い腹に紫雨の雄楔の形が浮かび上がりそうな程に、腹側の泣き処をじわじわと擦られながら、紫雨が再び指の皮膚を噛み切った。
赫がぽたりと落ち、臍の凹みに流れてやがて溜まっていく。それを楽しそうに見遣りながら、紫雨はもう片方の手で香彩の薄い腹を軽く擦 った。それがまるで腹越しの自慰のように思えて、その卑猥さにぞくりとしたものが背を駆け上がる。
くつりと、紫雨が笑った。
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