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第194話 成人の儀 其の六十★        ──名を呼ぶ艶声──

「……狂宴とも言うべきこの一夜も、もうすぐ終わる。自業自得と覚悟はしていたが……夢一夜の最後が、お前のそのような顔とは……口惜しいものよ」  「……ら、さ…め……?」  悦楽に浸された頭が、ぼぉうとする。目の前にいるというのに、何処か遠い所から紫雨(むらさめ)の声を聞いているような、そんな感じがした。  縋るように寄せていた竜紅人(りゅこうと)の腕から、:香彩「かさい)は顔を離す。淡々とした口調のどこかしらに感じる憂愁を湛えた声色に、香彩は悦色に染まり、荒い吐息を洩らしながらも、辿々しくも紫雨の名前を呼んだ。  再び、くつりと紫雨が喉奥で笑う。 「それでもお前がこうして俺の名前を呼んで啼く。今はそれだけでも僥倖だと取るべきか」 「…あぁ……っ! …ら…さめっ……んっ」 「そうか……まだ、呼んでくれるか……かさい」  香彩の薄い腹を擦っていた手が、下腹に付く程に硬く反り返った若茎をやんわりと握り込む。  手慰み程度に、薄桃色した肉茎を優しく(しご)きながらも、もう片方の血濡れの指で紫雨は、その下腹に最後の陣を書き上げた。  そうして術力の籠った『力ある言葉』で韻を結べば、下腹の紋様に光が帯び、木床に描かれていた大きな紋様が宙に浮かび上がる。  それは白虎の紋様だった。  雪神(ゆきがみ)のいる季節に合わせ、冬を司る玄武より始まった光玉の交配も、季節を巡ってようやく秋を司る白虎だ。  香彩と一番相性の良い白虎が一番最後とは。 (……よりにもよって……この体勢とは)  一体何の因果か。   「──っ、ああぁぁっ……んっ、むら……、ぁっんっ」  香彩の笠の張った柔らかい桃紅色の亀頭を、紫雨が親指と人差し指を使って、捏ねるように執拗に扱く。紋様の淫靡な気配も合わさって、香彩は白濁とした熱を、自身の下腹の紋様の上に吐き出した。  紫雨の名前を呼ぶ、煽情的な啼き声を封じるかのように、紫雨が噛み付くような接吻(くちづけ)を香彩に送る。  同時に抽挿を始めた紫雨の熱楔と、竜紅人(りゅこうと)の剛直に、香彩はくぐもった艶声を上げた。 「んっ……はぁっ、はぁ……ふっ……、んっ、んっ」  角度を変えながら幾度も口付けられては、口腔内を蹂躙する紫雨の舌と、蜜壺を捏ねる二本の剛直の動きに香彩は嫌でも翻弄される。  やがて解放された唇に紫雨の、香彩の名前を呼ぶ、熱い吐息が当たった。 「……かさい……」 「あ…、はぁっ、はぁ……んっ……あ…、あっ、あ……っん !」  腰の動きは更に激しさを増す。  竜紅人に手足を封じられ、身動きの取れない香彩の身体では、色付き艶めいた声や吐息も、自然と揺れ動く腰も隠すことが出来ない。 「……かさい……っ!」  まるで縋るような、熱の籠った紫雨の官能的な低い声に呼ばれるがままに香彩は紫雨を、見る。  ぞくりと、した。 「ぁ……」    その姿が……その目が、過去の、あの時の姿とどうしても重なるのだ。    

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