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第197話 成人の儀 事後 其の一

 涙を流した淫蕩な深翠が、ゆっくりと閉じられていく様を、紫雨(むらさめ)は食い入るように見つめていた。  獣のように荒く()く息を隠しもせず、ぐったりとした香彩(かさい)の白い肢体にぶつける。  自分の中にあったとても大きなものが、根刮ぎ失くなってしまったかのような、そんな気分を味わっていた。  同時に愛しい存在に大切なものを明け渡し、植え付けた征服感のようなものも感じていた。 「……かさい……」  名前を、呼ぶ。 「かさい……」  愛しい者の名を。  気を失ってしまった香彩からは、何の応えも返って来ない。 「……これで、最後だ、かさい」  するりと頬を撫で、交わすのは触れるだけの接吻(くちづけ)だ。  濡れている頬が、とても痛ましいと思う。 (……俺は、どれだけ)   お前を泣かせたのだろう。  最後の体勢で明らかに香彩の様子が変わったことに気付いていたが、もう止めることは出来なかった。  あの体勢は過去を、己の罪をさらけ出すものだ。 (それでも……竜紅人(りゅこうと)に縋りながら、まだ俺の名前を呼んでくれるお前が……)  愛しいと思う。  申し訳ないと思う。  だからお前の幸せの為ならば、何でもしよう。  たとえ今後、憎まれることとなったとしても、お前が笑って日々を過ごせるのならば、何だってしよう。  ずるりと。  香彩の花蕾から二本の剛直が抜かれる。  雄形のまま淫らに口を開けたままの花蕾が、物欲しそうにひくつく様が、紫雨の眼前に晒されていた。  やがて卑猥な水音を立てて、収まり切れなかった白濁が、つつと流れて褥の敷栲に、とろりとした染みを作る。 「……っ」  一体どれほどの量が、あの薄い腹に注がれたというのか。  はくはくとひくつく薄桃色した花蕾から、再びどぷりと溢れ出る白濁に、紫雨は息を詰める。  その光景はあまりにも扇情的だった。  四度も吐き出したというのに、熱を持ちそうになる己に、紫雨は自身を嗤った。  真竜の体液には催淫の効果があるという。  その効果に作用されているのだと、自分の心に言い訳をする。  四体の真竜の光玉を肚に埋め込む、その間だけの劣情だ。  今宵限りの狂宴だからこそ、竜紅人が傍にいながらも、香彩はふたりの前で舞ったのだから。  

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