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第258話 光射す 其の二

 ようやく目が光に慣れてくる。  それはまさしく雪神と雨神(あまがみ)が齎す、浄化の光だった。だがそれも一時的なものだということを、香彩(かさい)はよく知っていた。身の裡に潜む招影(しょうよう)が痛みを訴えている。それは直に香彩の胸の奥の痛みと繋がっているかのように、じくじくと痛み出す。  まさにそれはすぐ傍にいる、竜紅人(りゅこうと)に対しての罪悪感そのものだった。  彼の顔を見ることが出来ないまま、香彩は自身の夢床に降り立った二体の真竜を見る。  雪神(ゆきがみ)水神(みずがみ)。  漆黒の髪に瞳、黒づくめの着衣を着ているのは雪竜(せつりゅう)。  対のような銀の髪に瞳、白づくめの着衣を着ているのは水竜(すいりゅう)……雨神(あまがみ)と呼ばれるもの。  雨神(あまがみ)は香彩を見、次に竜紅人にを見ると、腹の底から涌き出たかのような、大きなため息をついた。 「確かに招影(しょうよう)の毒は厄介え。けどえ、お前まで毒されてどないするや」  呆れたような口調の雨神(あまがみ)に対する、竜紅人の反応はない。本当に隣にいるのかと思い、香彩は足元を盗み見る。視界の端に、竜紅人の衣着と沓を捉えたのと同時だった。  僅かに竜紅人の二の腕辺りが、香彩の肩に触れる。  俺はここにいるぞと言わんばかりのそれ。きっとわざとなのだろうと香彩は思う。  その体温が嬉しくも、とても苦しかった。 「それ程までに衝撃的なものを()たのだろう。一度毒されてしまえば、中々自我を取り戻すのは難しい」 「お優しいことだなえ、雪の。若竜も香彩も、その内に秘めた真実を知っておる。何故この夢床(ゆめどの)の中に仕舞い込み、真実を見つめることをせず、自らを貶めておるのか。ほんに理解に苦しむえ」 「人は忘れることで生きていける生き物だ、水の。譬え救いになる真実でも、忘れてしまえば意味がない。忘れていく過程で、真実を捩じ曲げて記憶していることもある。正しい真実を思い出せないこともある。招影(しょうよう)はそんな『曖昧な真実』と漠然とした罪悪感を鮮明に()せる。堪ったものではないな」 「──雪の、若竜めは人ではないえ」 「人と共に過ごし、人と情を交わしたのだ。思考もより人に近いものになっても、おかしくはない、水の」 「けどえ、雪の……──」 「──ちょ、ちょっと待って下さい……!」  雨神(あまがみ)と雪神が言い合いを始めてしまったところに、香彩が割り込んだ。 「どうして、御二方が夢床(ここ)に……?」  夢床(ここ)に来ることが出来たのか、それが香彩には分からなかった。

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