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蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する 第270話 偽りなき真実 其の五 | 結城星乃の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する
第270話 偽りなき真実 其の五
作者:
結城星乃
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第270話 偽りなき真実 其の五
厭魘艶嫣
(
えんえんえんえん
)
と。
怨瘟陰鴛
(
おんおんおんおん
)
と。
招影
(
しょうよう
)
の啼き声が、一段と強く聞こえた気がした。闇もまた粘り気を増したのか、側にいるはずの
竜紅人
(
りゅこうと
)
の姿が再び見えなくなる。 だが互いに指を絡め合う手の温もりだけは、ずっと感じていた。きゅっと握れば、握り返してくれる力強さに愛しさが募り、励まされる。
厭魘艶嫣
(
えんえんえんえん
)
と。
怨瘟陰鴛
(
おんおんおんおん
)
と。
招影
(
しょうよう
)
の啼声が合図であったかのように、大舞台の幕がゆっくりと開くかの如く、ある光景が現れる。 目の前で繰り広げられるそれは、思念体の竜紅人が消えた後の、気を失った
香彩
(
かさい
)
と
紫雨
(
むらさめ
)
との情交だった。 「──今だけだ。許せ……竜紅人」 そして、香彩よ。 欲に掠れた肉声と荒い吐息、卑猥な水音が耳を打つ。香彩の熱く纏わり吸い付くような
胎内
(
なか
)
で育てた熱楔を、これでもかと打ち付けて最奥に熱を放つ。
胎内
(
なか
)
は熱の刺激に応え、きゅうと、絞り取るような動きを見せれば、それが再び雄を扱き上げ育てる。 紫雨は熱楔を香彩から抜くことなく、これが最後だと言わんばかりに、荒々しく腰を動かしていた。やがて
胎内
(
なか
)
から溢れて白く泡立つ熱に構うことなく、より奥に向かって腰を進めて熱を吐き出す。 本来であれば香彩が知る術もなかったこの情交を、
招影
(
しょうよう
)
が見せるのは香彩を堕とす為か、それとも香彩の身体が微かにこの情交を覚えていたのか。 真竜の熱に含まれる媚薬の効果と滋養の効果は、確かに紫雨にも現れていた。萎えることも疲れることも知らないその身体は、欲望のままに、そして名残惜しむように香彩を蹂躙する。 激しく腰を打ち付けながらも、香彩の色付いた唇に接吻を落とし、首筋を、肩を食む。 荒々しい紫雨の、吐息混じりの声が室内に響いた。 「……っ、かさい……お前は……っ、生まれて来なかった方が、幸せだった」 ──ウマレテコナケレバ……ヨカッタ。 「──っ!」 自分の存在を否定する言葉を言われることは、先程の闇の中で知っていたはずだった。それなのにどうしてこんなに胸が痛むのか。 何故自分を否定するのに、こんなにも求められているのか、香彩にはどうしても分からない。 (……僕は) 貴方にとって、一体何だったのか。 枷でしかなかったのか。 闇に呑まれた心が、その言葉が、自らの精神に刃を立てる。 まさに刹那。 高らかに吠ゆる蒼竜の、厄を払う啼声が聞こえてきたのだ。 ──忘れるでないよ、蒼竜の咆哮を。お前を守り、導くものえ。恐れず闇を見りゃ。闇を暴き、偽りなき真実を視せる、厄を払う啼声を忘れるでないよ。 不意に
雨神
(
あまがみ
)
の声が、頭の中を過る。 闇を暴き。 偽りなき真実を視せる。 厄を払う啼声。 紫雨が荒々しい息遣いのまま、香彩を組み敷き、見下ろす。欲のままに振るう乱暴な腰使いが緩やかになり、やがて止まった。
節榑立
(
ふしくれだ
)
った指が、汗ばんだ香彩の藤瑠璃色の髪を優しく
梳
(
くしけず
)
る。 大きく熱い手はそのままゆっくりと下がり、香彩の頬の柔らかな線を確かめるかのように、何度も撫でた。
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結城星乃
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