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蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する 第271話 偽りなき真実 其の六 | 結城星乃の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する
第271話 偽りなき真実 其の六
作者:
結城星乃
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第271話 偽りなき真実 其の六
香彩
(
かさい
)
、と。 官能的な欲に掠れた低い声が、自分の名前を呼ぶ。 「お前は……生まれて来ない方が幸せだった。生まれて来なければ……よかった。そう思ったことが、何度も……何度も、ある」 ああ、やはり否定されるのか。 そんなことを心の隅に思う。 もうこれ以上、何も考えたくなかった。聞きたくなかった。 だが蒼竜は
啼
(
な
)
いたのだ。 闇を払い、偽りなき真実を視よと、
啼
(
な
)
いたのだ。 香彩を奮い立たせるように、見えない手が香彩の手の甲を優しく撫でる。指と指の間を柔く摺り合わせて絡める。その何とも言えない感覚に、ただひたすら慰められる。やがて力強く自分の手を握るその感覚に、逃げるなと言われている気がした。 香彩は、ぐっと奥歯を噛み締めてから、再びあの時の情交を見つめる。
紫雨
(
むらさめ
)
が香彩の頬に触れたまま、ほんの僅かに触れるだけの
接吻
(
くちづけ
)
を落としていた。 愛しいのだと、いわんばかりのそれ。 「生まれて来なければ、お前は辛い心の傷を負わずに済んだ。『力』に目覚めることもなかった。こうして『力』を護り、引き継ぐ為の儀式の為に、俺と目合わずに済んだ。それでも俺は……っ! お前が生まれてきてくれて、良かったと思っている。これは俺の我が儘だ。勝手だとお前は怒るだろうが、それでも俺は……俺はお前がいてくれて良かったと思っている。お前が生きがいだ。お前が生きていてくれたことが、生きていることが俺の何よりの幸せだ。これからもお前を見ていたい。お前があいつと、どんな人生を歩むのか見ていたい」 それは胸が詰まりそうな程に、張り詰めた声で話す紫雨の独白だった。 ぽたり、と。 何かが香彩の頬に落ち、滑らかに首筋へと流れていく。 「だがお前は……俺の過去に振り回されて、心身の傷を俺に偽り続けてきた。そんなお前の幸せを、考えてやる余裕が、俺にはなかった」 すまない、と。 そう言いながら紫雨は、香彩の身体から熱楔を引き抜いた。無言のまま、熱の溢れ出す花蕾に指を差し入れ、胎内に残るものを丁寧に掻き出すと、元々着ていた儀式用の白衣を香彩の身体に被せる。 そのまま潔斎の場を離れた紫雨が、次に戻って来た時には、湯を張った桶を持っていた。 固く絞った布で、香彩の身体を拭き清めていく紫雨が、酷く穏やかな顔をしている気がして、香彩の心を先程とはまた違った感情が締め付ける。 否定されてなどいなかった。 寧ろ求められていたことを、知ってしまった。 紫雨、と。 名前を口にしてしまえば、心から溢れ出してしまうものがある。その感情のままに、気付けば香彩の頬に一筋の涙が伝った。 それを見えない指が掬い上げる。 やがて慰めるように吸われ、涙の通った跡を優しい
接吻
(
くちづけ
)
が辿る。 (──
竜紅人
(
りゅこうと
)
……) どんなに目を凝らしても、彼の姿は見えない。 ただ闇の中で彼の存在を、温もりとして感じるのみ。 それ程までにこの
招影
(
しょうよう
)
の闇は深かった。 『力』を光によって削がれていくことを知った
招影
(
しょうよう
)
が、より濃く鮮明に幻影を視せ続ける。
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結城星乃
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