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第313話 顕現 其のニ

 『力』の源の光が、優しく三つの蒼玉に降り注いでいる。蒼玉は嬉しそうにそれを浴びて、くるりと回るのだ。まるで『力』が蒼玉を守り育てているのだと言わんばかりの光景に、香彩(かさい)は無意識の内に自分の腹部に触れた。  蒼玉からは竜紅人(りゅこうと)によく似た神気が感じられる。あれは真竜の核と光の玉が結びいた『真竜の元』となるものだろう。  この『真竜の元』に発情した真竜の熱を浴びせることによって、彼らは真竜となるのだ。  ──お前の胎内(なか)にある真竜の核と子種の熱が結び付くまで、何度もお前を抱いて胎内に注いで植え付ける。  ────俺に孕まされにおいで……香彩。   「……あ」  不意に思い出した竜紅人の言葉が、香彩の脳裏を、身体を駆け巡る。  分かっているようで分かっていなかったのかもしれない。自分の胎内に『真竜の元』があることを。  自分の『力』の源が彼らを慈しんでいる光景は、ほんの少しだけ心に衝撃を受けたが、すぐにすとんと心内に落ちた。  自分が真竜を。  桜香(おうか)と紅竜と壌竜(じょうりゅう)を生み出すのだと。  くゎいくゎい、と。  銀狐の促すような急かすような鳴き声に、香彩は思わずくすりと笑った。 「そうだね。銀狐も早く会いたいよね」  そんな銀狐の頭を、香彩は宥めるように再び撫でる。 「新しく生み出される紅竜と壌竜には、前世の記憶はないけれど、仲良くしてあげてね。銀狐」  香彩の言葉に当然だと言わんばかりに、銀狐がけぇんと軽く遠吠えをする。その紫闇の目は綺羅綺羅と輝いて、未来の邂逅を心待ちにしているように見えた。  大きく息をついて、香彩は再び自分の『力』の源を見据える。呼吸によって、衣着の合わせ目の下にある唇痕が擦れてじんと痛む。だが竜紅人に付けられたその痛みもまた、香彩の心を奮い立たせるものとなった。  こくりと唾を呑む。  術力の源でもある大きな光の玉に、恐る恐る手を伸ばして、優しく触れる。   光の玉は主を思い出したかのように、くるくると回りながら香彩の胸の中に納まった。他の光玉達も追従して次々と香彩の中に納まっていく。  最後の光玉が香彩の中へと消えたその刹那。  恐ろしいまでの、神々しいひかりが辺りを包み込んだ。  まさにそれは今まで香彩の中で眠っていた、甚大なる術力の顕現の証だったのだ……。

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