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第394話 竜の寵愛 其の一

 どれくらいそうしていただろう。  とても長い時間、だったのかもしれない。  とても短い時間、だったのかもしれない。  ずっと求めていたあたたかい腕の中は、気の遠くなるほどの愛しさと優しさに満ちていた。  一頻りお互いの体温を分け合い、堪能するかのように抱き締めて離れる。  額に降ってくる唇を香彩(かさい)は、擽ったそうに笑いながら受け入れた。やがて目蓋に鼻梁に、軽く吸い付くようにして落とされていくそれが、ふと止まる。  どうしたのだろう。  そう思って香彩が目を開けると、竜紅人(りゅこうと)の甘く蜜を煮詰めたような伽羅色の眼差しが、すぐ目の前にあって胸が高鳴る。顔に朱が走っていくのが嫌でも分かった。熱い吐息が唇に触れる距離で、お互いに見つめ合う。  それは貪り尽くすようなものでもなく、あからさまな情慾を煽るようなものない、ふわりとした熱が灯されるかのような接吻(くちづけ)だった。  時折唇を啄み、舌で擦られる。お互いの呼吸で唇がしっとりと艶めかしく濡れていく様は、とても気持ちが良くて仕方がない。  竜紅人の牙が香彩の唇を甘く噛む。戦慄く唇を宥めるように這う彼の舌を、香彩はおずおずと舌を出してちろりと舐めた。薄く開いた唇の隙間を竜紅人が逃すはずもなく、滑り込むように熱い舌が香彩の口腔に入ってくる。   (……ああ、あまい)    発情期の後の所為なのか、竜紅人の舌に纏う唾液が酷く甘く感じられる。  舌の先が触れ合って熱が絡み合えば、それはもう禁断の甘露だ。  舌の根を吸い上げられれば、つんとした痛みが走る。痛みはぞくりとした官能が背筋を、そして尾骶を甘く痺れさせる。  やがて身体の芯に少しずつ熱が灯り始めると、香彩は僅かながらに身を捩った。逃すまいと背中に回っていた竜紅人の腕の力が強くなる。その程良い締め付けすら気持ち良くて、香彩はくぐもった声を上げた。  竜紅人の舌は香彩の口の中の良いところを知り尽くしているのだと言わんばかりに、弱点を責め立てる。絡み合っていた舌が離れたかと思いきや、上顎をねっとりと舌で撫でられて肩がびくりと大きく震えた。そうして頬の内側を、歯の根をじっくりと舐め回されて、唇の隙間からお互いの濡れた息が洩れる。  決して性急ではない。だがお互いの理性を少しずつ溶かしていくかのような、心が恍惚を孕んだ熱に蕩けていくかのような、そんな接吻(くちづけ)だった。   

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