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第395話 竜の寵愛 其の二

 熱い吐息を洩らしながら唇が離れる。  舌先を名残惜しそうに繋ぐ、淫靡で透明な糸がとろりと落ちるが、香彩(かさい)は気にも留めずに竜紅人(りゅこうと)を見つめた。  彼は舌先を出したままだ。  その意味を香彩はよく理解していた。  慈愛に満ち、ぎらついた欲を孕みながらも、伽羅色の瞳は雄弁に語る。  おいで、と。  好きなように貪りにおいで、と。  艶麗な薄桃色をした竜紅人の長い舌が、纏わり付くその蜜が、とても甘いことをこの身体は知ってしまっている。  まるで花に誘われた蝶のようだ。  その蜜が欲しくて堪らなくて、気付けば香彩は座っている竜紅人に跨りながら、彼の舌を口に含んだ。雄蕊(ゆうずい)を口淫するかのように、口を窄めて頭を上下に動かす。じゅうと吸い上げれば、咥内はいつもよりも甘味の増した真竜の唾液が広がった。口の中で転がしてから味わうようにこくりと飲めば、芳醇な酒を一気に飲み干した時のように、身体がかあっと熱くなる。   「──んっ」    香彩はくぐもった声を上げながら、角度を変えて幾度も幾度も竜紅人の舌を啜り上げた。  ああ、好きだ。  そんなことをふと思う。  竜紅人が好きで好きでどうしょうもない。言葉にするのがもどかしいほどに、彼に対する好きという気持ちが溢れて仕方ないのだ。溺れてしまいそうなほど恋しくて愛おしい。こうして唇を重ねた分だけ、舌を舐め上げて啜り上げた数だけ、この思い全てが竜紅人に流れ込んでしまえばいいのに。  そんなどうしようもないことを考えながら、敏感な舌で竜紅人と舌を蜜を味わう。  啜り切れなかった蜜が、彼の衣着に丸い染みを作った。  普段であれば竜紅人は、ある程度香彩に蜜を与えたら綺麗に唾液を切って、香彩から取り上げる。だが今回、彼はそんな素振りを全く見せなかった。好きなだけ与えようと言わんばかりに蜜を滴らせる。微量だが真竜の唾液にも催淫の効果が含まれているためか、香彩の身体は徐々にその熱さを増していく。   「はぁ……っ、すき……、りゅう……」    熱い吐息を吹き掛けるようにして、竜紅人の舌に貪り付きながら、香彩は思いの溢れるがままにそう伝えた。  ぎらついた伽羅色を細めた彼は、香彩の言葉に応えるかのように喉奥でくつりと笑う。  それが合図、だったのか。   「──あ」    鼻を擽る甘い匂いに、竜紅人の舌を解放した香彩は、びくりと身体を震わせた。  竜紅人特有の、森の木々の香りのような神気の中に含まれる、甘い香り。だんだんとそれが濃厚とも云える、芳しい熟れた春花のような香気へと変化していく。   「りゅ……まだ、発情期……っ」  「ん? ……ああ、そうみたい、だな」    

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