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第396話 竜の寵愛 其の三

 どこか陶然したような表情でそう言った竜紅人(りゅこうと)が、つんと香彩(かさい)の羽織っている上掛けを引っ張った。   「んんっ……」    するりと身体を滑り落ちていく上掛けの感触ですら、いまの香彩にとって粟立つ快楽の材料だ。上掛けは香彩の太腿辺りに申し訳程度に掛かっているばかりで、その白磁のような裸体のほとんどを、座っている竜紅人に跨って晒していた。対して竜紅人は人形(ひとがた)に戻ったばかりで、衣着の乱れが一切ない。倒錯的なその光景を考えるだけで、恥ずかしいというのに堪らなくて身震いがする。  そんな香彩を更に追い詰めるかのように、竜紅人の身体からぶわりと『香りの奔流』とも云える発情期特有の甘い芳香が放たれた。その匂いを嗅いで自分がどうなってしまったのか、この身体はしっかりと覚えてしまっている。  真竜の発情期の芳気は、御手付きの身体を強制的に発情させる。  後蕾の奥にある蕾が再び花開いたことを、香彩は嫌でも自覚した。どろりと溢れ出すのは、奥の奥に吐き出され停滞していた、自身の蜜の混ざった蒼竜の白濁とした熱だ。つつと腿を流れていく感触に、香彩は身悶えながら荒く息を吐く。   「……はぁ……」    なるべく彼の身体に触れないように、竜紅人の身体を跨ぐようにして膝立ちしていた香彩の内腿が、襲い来る快楽によって痙攣し始めた。だんだんと力が抜けて、自分自身の身体を支え切れなくなる。だがいまの状態で竜紅人の上に座ってしまうのは、どうしても避けたかった。   (……だって)    汚してしまう。  蠱惑なまでに熱い息を吐きながら、香彩は竜紅人の片方の肩に手を置いて、彼の上から自身の身体を退けようとした。  だが。   非情にも竜紅人の発情の濃香は、あの時と同じように狂おしくも香彩を抱き締める。   「……っ、だめぇ……はぁ、見ないで、ぇ……!」    香気に誘われるがままに、香彩は竜紅人の上で腰を前に突き出した。つい先程まで汚してしまうことを気にしていたというのに、竜紅人の股座の上に座り込む。身体が無意識の内に求めているのか、臀の双丘に当たる竜紅人の衣着越しの剛直を、妖艶な腰付きで擦り付ける。  綺麗な曲線を描く香彩の腰の括れに、支えるように添えられる大きな手。    その熱さと。  蜜と溶いたように甘く、だが欲に染まった毅い伽羅色に。   「──っ、ぁ、んっああぁぁ……──!」    半ば強制的に深い悦楽に突き上げられた香彩は、竜紅人の腹に若茎を押し付けるようにして、法悦の証を吐き出したのだ。

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