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寒空_1

――寒気がして目を覚ましたら、涎を垂らした吸血鬼が私の顔を覗いておりました。 「あ、やべ……起きちゃった?」 「…………ハロウィンは先月終わりましたから、そう言う格好をするのでしたら後一年待った方がいいと思いますよ」 「…………なっ、これコスプレじゃねーよ!本物!俺、吸血鬼!」 騒がしい。こっちは寝起きだと言うのに。 と言うか不法侵入では……。そこまで思考を巡らせたところで横たわっていた身体を起こし、目に入ってきた周囲の景色になるほどと一人納得した。 人っ子一人居ない夜の公園。 私はどうやらこのベンチで眠りこけていたらしい。 僅かに感じる頭病みは、酒の飲み過ぎによるものだろう。 寒気というよりも体感で寒かったのだと悴んだ手が教えている。 公園に設置された針時計の示す時刻は午前二時。 ……帰って寝直そう。 フラフラと立ち上がり帰路に着こうとした私の手を何かが掴んだ。 「おい、聞いてんのか?俺は本物の吸血鬼なの!」 「……ああ、まだ居たんですか?貴方も相当酔っ払ってますね。まあ私も人の事言えないですけど」 「酔っ払ってねぇし!見ろ、この鋭い牙を!」 覗かせた唇の隙間からは言うだけあって立派な牙が姿を見せている。 背中にある羽……翼……的なものも小ぶりではあるけれど造りはしっかりとしてるようだった。 ふむ、もしかしてこの人。 「プロのコスプレイヤーの方ですか?お顔立ち的にそんなに若くなさそうですけど、確かに整ってますね」 「〜〜っ、だから!コスプレじゃねーってば!ったく、ほら!この羽引っ張ってみろよ!」 「はぁ……では失礼して……」 本人が羽と言うなら翼ではなく羽と称そう。 正直酔っ払いの戯言だと思っているが、それでこの男の気が済むならと羽に手を掛ける。 「あの一応言っておきますけど、弁償とかしませんからね」 「造り物じゃねーし、人間如きの力で壊れるわけ――痛!?いっててててて、馬鹿!馬鹿力!んなに引っ張んじゃねーよ!」 「…………」 驚いたな…………。これ、本物だ。 「ったく……どうだ?本物だろ?」 …………もしやこれはまだ夢の中?いやでも身に感じる寒さは本物。 「………疲れてるんだ。こんな幻覚を見てしまうなんて。早く帰って眠らないと」 「あー!もう!まだ信じねーのかよ!俺は――あ……れ…………?」 「え……?ちょっと……」 凄い剣幕で詰め寄って来たはずの男の身体は、急に力を失って私の方へと倒れ込んで来る。 「大丈夫ですか?何かに躓きました?あの、聞いてます?………………?…………眠ってる、いや気絶した?」 覗いた顔は青白く血の気が引いている。 「困ったな…………」 どれだけ揺すっても起きる気配のない男に、私は寒空の下途方に暮れるしかなかった。

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