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2-雨降りパーティナイト(7)
「灰谷ー、着替えありがとだけど、おっきかった」
灰谷が貸してくれた着替えを身に着けた。背が高い灰谷の服はさすがに大きい。袖が余りに余っている。シャツの裾は膝に届きそうなくらい。
「だよね。俺でも袖長いなって思うもん。でも今それしかないの。我慢して」
「うん。いや、ありがとう」
灰谷に礼を言ってぱたぱたと余った袖をふった。
俺に目を止めた灰谷がにやりと笑った。
「しろやん、それ、むしろ似合ってるじゃん。小人さんみたいで可愛い」
「それにしても服おっきいでしょ」
俺がそう言い返したら、城崎さんが口を押さえて笑いをこらえながら言った。
「小人? いや……もっと朴訥とした……あ、コロポックルだ。コロポックル」
聞き付けた灰谷が腰に手を当てた。
「もー、きのぴー! これ以上しろやん虐めたら駄目だよ! 今日はしろやんときのぴーの仲直り会なんだからね! ちょっと、ねぇ! きのぴー聞いてる!?」
「こ……コロポックル……ぷふっ……」
城崎さんは口許を覆ったままうつむいてしまった。あ、笑いをこらえてぷるぷる震えてる。
「きのぴー!! きのぴーだってさっきまでスーツのくせに裸足だったじゃん! 充分面白いからね!」
「こんなのは雨の日によくあるだろ? 別に面白くない。普通だ。ふ……ふっ、コロポックルには、敵わない」
城崎さんの靴下がハンガーに引っかけて干されてる。雨で濡れちゃったんだな。
じゃあ城崎さんは裸足……いや、おそらく灰谷のだろう靴下を借りて履いてる。
暗紫色の短い靴下。
……は! 何あれ。靴下の履き口の上に見える白くてちっちゃくて固そうでつんとお澄ましした可愛いヤツ。
あ、ああ、くるぶしか。
くるぶしってあんなに色気溢れる部位だったっけ。
撫でたい。指先でくるくるって撫でたい。じゃなきゃ、手のひらで包み込むようにぎゅって覆って、とがり具合を堪能したい。許されるなら舌でもその固さを味わいたい。
……あは。新しいフェティシズム開発されちゃった。
城崎さん、責任とってそのくるぶしを触らせてください……ダメ? ダメかな? ダメだよなぁ……でもいつか! いつかキスさせてもらいますから!
「おい、そろそろ鍋ができるぞ。白田もそこ座れ」
「はい!」
円形のテーブル。俺はもちろん、城崎さんが指したところよりも城崎さん寄りに座った。
「そこじゃない白田、もっとそっちだ。もう三十センチ左に座れ」
「はい!」
「聞いてるのか白田。三センチじゃない。三十センチだ」
「これ以上左行けません。灰谷が座るとこなくなっちゃいます」
城崎さんを見つめて――まっすぐ見つめると顔が赤くなっちゃうから、焦点をずらして――無言で訴えてみる。城崎さんの近くに座りたいんです。なんなら寄り添いたいんです。
「灰谷は相撲取りか? そんなに間をあけなくていいだろ」
哀れ、俺の訴えはまったく届かなかった。やっぱり焦点は合わせないと駄目なのか。
城崎さんは、卓上コンロの上でごとごと音を立て始めた土鍋の蓋を取り、もうもうと上がる湯気に目を細める。
「灰谷、そっちは準備できたか? 鍋がもう食べ頃だ」
「ありがとー。うん、俺も今行くよ」
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