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2-雨降りパーティナイト(8)
ほかほかお鍋に、お燗をつけてこっくり日本酒。
鍋は鶏団子鍋だった。
灰谷特製の小さなお団子たちは、生姜は控えめに、その代わりにぷちぷち白ゴマのいい香りをさせている。
そんな鶏団子をメインに、脇を固めるのは薄くスライスしたニンジン、どっさりキャベツにくたくたの長ネギ、しんなりするまで煮られたモヤシ。あとキノコたくさん。
こんなの美味しくないわけがないよね。
何回よそっても、すぐに取り皿が空になっちゃう。
「灰谷ー! 美味しい、美味しいよぅ」
あったかい野菜に鼻をぐずつかせて、灰谷に美味しいよアピールをする。
「ありがと。良かったね。火加減はきのぴーのお仕事だからね。よく火が通ってて美味しいね」
「美味しいです城崎さーん」
城崎さんには無邪気な笑顔で可愛くアピール。
「そうか。それは良かった」
城崎さんが、にこって笑ってくれた。あぁ、何ここ? 天国? あったかくて、美味しくて、綺麗で、ふわふわする。
「そうなんですぅ、幸せですぅ」
はぁ、美味しすぎて涙でてきた。
「ほらしろやん、涙拭いてあげるからおいで」
灰谷にタオルで目元を拭ってもらった。
「白田、え、泣いてるのか?」
俺はその声に反射的に振り返っちゃって、城崎さんに泣き顔見せちゃった。
「ち、違います。湯気が目に入って、その」
「目、赤くなってる」
城崎さんが俺の顔をじっと見て言う。
「今タオルで擦ったからです」
「だんだんうるうるしてきた」
「そ、それはぁ……」
あっという間に逃げ道がなくなる。涙も第二波が押し寄せてきていて、抑えきれなくなりそうだ。
「ぅ、」
涙が、ぽろぽろっと零れ落ちる……けれど、灰谷がまた拭ってくれた。
「いいじゃん、しろやん。泣いたっていいじゃん。鍋つゆ作った身としては、美味しいって泣いてくれるの最高に嬉しいよ」
は、灰谷が優しい……。
「うぇぇ、灰谷大好きだよぉ」
「はいはい。野菜もお団子も美味しいでしょ? きのぴーがちょうどいい火加減になるようにずっと見ててくれたからだよ」
「はぁぁ、城崎さんも大好きですぅー」
振り返って城崎さんにしがみついたら、初めて小動物に触れる子供のように恐る恐る頭を撫でてくれた。
「くたくたで甘い長ネギ、大好きなんですぅー」
「そ、そうか」
ぎこちないけれど、心なしか優しく撫でてくれてる。あたたかい手が気持ちいい。
俺はなんだか無性に甘えたくなって、城崎さんに抱きついたまま、頬を胸にぐりぐり押しつけた。
とくん、とくん、と心臓が脈をうっているのが分かった。それが俺の鼓動と時折重なっているのも。
また泣きそうなくらい嬉しくなっちゃって、城崎さんの顔を見上げる。
「なにどさくさに紛れてるんだ」
視線をそらした城崎さんに、髪をくしゃくしゃにして押し戻された。
頬が赤いような気がするのは、アルコール? 部屋があったかいから? それとも?
「冷める前に食べろ。次の野菜入れるぞ」
「はい!」
とりあえず、まずお鍋食べてから考えよ。美味しいからね。
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