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「――なあ。またたまにやって、これ」  高志の呼吸が落ち着くのを待っていたように、しばらく間を置いてから茂が口を開いた。 「これ?」 「うん」  茂の言葉を理解して、高志は回したままの両腕に再び力を込める。それに頷きながら、茂の手も再びその腕を抱え込んだ。目の前のむき出しの肩に注意を引き寄せられながら、高志は無意識のうちに頭の中の思いを口にしかけた。 「もし俺と」 「ん?」 「――」 「え? 何て?」  不意に言葉を止めたせいで、聞き逃したと思ったのか、茂が顔をこちらに向ける。高志は咄嗟に言葉を選び直してから、続きを口にした。 「……もし俺が死んだら、っていうか」 「え? 何」 「もし俺が死んでもさ……お前、他の男とやるなよ」 ――もし俺と別れたら。  最初に浮かんだその言葉は、そのまま口に出したくなくて打ち消した。言葉にしてしまえば、その未来を無抵抗に認めてしまうことになる気がした。いつか必ず来ると確信しているのに、同時に全力で否定している未来。 「死ぬって、いきなり何だよ」 「いいから。もし俺が死んだらお前、もう一生、女とだけやっとけよ」  言いながら、磁力に引き寄せられるように目の前の茂の肩に唇を押し付ける。どうして男の肌にこんなに独占欲を覚えるのだろうと思いながら、その衝動のままに甘噛みする。 ――これは俺だけの。 「女ならいいんだ?」 「……いい」  唇を肩に付けたまま真面目にそう答えると、茂が少し笑う気配が伝わってくる。 「他の男となんかやらないよ」 「やるなよ」 「やらないって」  それからまたこちらを振り返る。 「お前だってやらないだろ」 「やる訳ない」 「だよな。お前、俺じゃなかったら殴ってでもやらないんだよな」 「……色々とよく覚えてるな」  昔言った覚えのある台詞をそのまま口にした茂に思わずそう言うと、「覚えてるよそんなの」と返ってくる。それから高志の方に首を傾けてあごを上げる。その仕草がキスの催促だと気付いた高志は、首を伸ばして深く口付けた。 「ん……」 「……細谷」  唇の触れる距離で名前を呼び、何度もキスを繰り返す。茂の腕が高志の首を引き寄せる。  茂の恋人のことも、そして自分の恋人のことも、二人のこの先のことも、考えないようにする癖がついていた。今は一緒に同じ時間を過ごすことだけを考えていたかった。  きっと将来捨てられるのは自分の方だろう。いつからか高志はそう思っていた。茂に言えばきっと否定するだろうけど。  それでも、この先どうなるかなんて分からない。本当に明日死ぬかもしれないし、お互いの気持ちにだって何の保証もない。でも少なくとも今こうやって、茂が自分のものだと思えているのなら、そして茂が高志を求めてくれるのなら、今はそれでいい。  今はただそれだけでいい。 (完)

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