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「――細いな」
「ん?」
「お前の腰」
腹部に回した腕は、軽々とその体をその輪の中に収めていた。
「ふ。何、今更」
「薄い腹だなってずっと思ってた」
「へえ、そうなんだ」
「お前と初めて会った時にも思った」
「へえ」
「お前の第一印象、それ」
「……」
茂はもう何も言わず、ただ頷いた。黙ったまま、後頭部を軽く高志に預けてくる。あの頃のことを思い出しているのだろうか、と想像する。あの日から始まった二人の関係。大学で初めて出会って、友達になって、親友になって、それから紆余曲折を経て恋人になった、その全てが始まった日。
「……俺がちゃんと興奮してないと、お前、やっててもつまんない?」
「え?」
しかし、茂が口にした言葉は、高志の推測したものとは全く違うものだった。
「……」
いつもながら自分の推測は的外れだな、と高志は自嘲する。そして何と答えるべきか決めかね、しばしの後に、高志は黙ったまま動きを再開した。もしかしたらむしろその方が伝わるのだろうか、と思いながら。
「……藤代」
茂の腰を左手でがっちりとホールドして、深く深く入り込んでは抜く。茂の体がその度にびくりびくりと揺れる。
「藤代……なあ」
「……」
止めようとしているのか、茂の手が高志の骨盤の辺りを押さえる。それを無視して、高志は動き続ける。
「ん……っ、藤代……」
「……」
「あっ……怒った……?」
「……」
徐々にスピードを上げる。荒い呼吸をわざと聞かせるように、茂の耳元に顔を寄せる。つまらないと思っていたらこんな反応はしないだろう、と言うように。
「ごめ……っ、変なこと言っ……」
「……」
切れ切れに喘ぎながら、やがて高志の腕に縋るように、茂が深く項垂れる。その手にぎゅっと力が入るのを感じ、高志はようやく腰の動きを緩めた。
「……怒ってない」
ひとつ息をついてから、左手で宥めるように茂の腹を何度か撫でる。
「つまらないとか考えたこともない」
茂が小さく頷く。
「そうじゃなくて……俺ばっか気持ち良かったら、そのうちお前が嫌になるんじゃないかって、ちょっと思って」
「……」
茂はもう一度頷き、それから今度は首を横に振った。
「俺が嫌になるとか、絶対ないから」
「じゃあ俺も、つまらないとか思ったりしない、絶対」
「……うん」
茂の腰から手を放し、その股間に触れてみると、やはりそこは完全には立ち上がっていなかった。
「……ほんとにイかない?」
「うん。今日はもう……さっき一回イったし」
「この状態で入れてて、辛くないか」
茂はもう一度首を振り、気持ちいい、と呟くように言った。
「大丈夫だから、お前、好きなように動けよ」
茂が軽く振り返りながらそう言う。その瞬間、高志は、茂が昨夜彼女を抱いてきたのだと気付いた。
「――うん」
抱くことと、抱かれること。その辺りに葛藤はないのだろうか、と思ったが、口には出さなかった。言われるまま、再び腰を動かし始める。茂にその気がないのなら、早めにイってしまうのがいい。
以前に覚えたことのある茂の恋人への嫉妬を、今日の高志は何故か全く感じなかった。それはもちろん、たった今、茂が自分の腕の中にいるからだった。この細くて温かい、高志と同じ形をした体。それは高志のものだった。体も気持ちも全部。
茂は高志に身を任せたまま、黙ってその動きに揺られている。腕の中の存在だけに徐々に意識が集中していき、いつの間にか高志は無心になっていた。自分だけに開かれたその隘路の柔壁に包まれ、その奥に何度も何度も入り込もうとしては引き返す。そうしてほどなく高志は中で静かに果てた。
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