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第1話
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「すごいマンション……」
少し高台に立つ三十階建ての集合住宅は、周囲の高層マンションの中においても群を抜いて威圧的だった。深夜という時間帯もあり窓の明かりが宝飾品のようで、一層近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「要塞みたい」
辺りに人がいないのをいいことに、ショウは独り言を口にして、再度スマホの地図アプリでこれから向かう建物を確認した。
ショウは登録制デリバリーホストのアルバイトをしている。この時もマネージャーの指示のもと、会員の呼び出しに応じて指定された場所へ向かっているところだった。
マンションの入口に立ち、呼吸を整える間もなく自動ドアがスムーズに開く。エントランスに足を踏み入れれば大きな花瓶に花が生けてあるのが目に入り、豪奢な様に萎縮する自分を鼓舞しながらオートロックのキーパッドで部屋番号を打ち込んだ。
「はい」
呼び出し音二コールで、男性の声で応答があった。
「こんばんは」
「どうぞ」
左手の自動ドアが開き、ショウはその方へ歩き出した。
通路を何度か折れ曲がりエレベーターに乗り込む。初めての場所であり、初めて会う客だった。マネージャーによれば会員になって間が無く、この日が最初の利用とのことだ。
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