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第2話

 エレベーターが二十八階に到着するまでの間、どうしても緊張してしまうのを深呼吸してやり過ごした。どのような相手か分からないうちは不安で大抵こうなる。冷たく強ばる指先をぎゅっと握りしめ、夜中に自宅に呼ばれるのは珍しいなと考えていた。夜中の利用は性的処理が目的のことが多いため、呼び出されるのは大概ホテルだからだ。  エレベーターを降り、角の部屋へ。玄関のドアチャイムを鳴らすと、ほどなくしてドアが開かれた。 「こんばんは」  にっこり笑って挨拶をして見上げれば、玄関先に立っていたのはすらりとした長身の、顔立ちの整った男性だった。予約の名前は大澤彰人。見たところ年齢は二十七、八歳くらいで、身持ちの良い勤め人との印象を受けた。部屋着はシンプルな白いシャツと黒の細身スウェットで品がある。 「こんばんは。どうぞ入って」  ショウを見た彰人は、安心したようにふわっと微笑み、ドアを大きく開けた。  あまりにも綺麗な笑顔にドキドキしながら、近所の人の耳目に触れないよう、すぐにドアの内に身体を滑り込ませる。後ろ手にドアを閉め、名刺を渡した。 「御利用ありがとうございます。ショウと言います」 「あ、大澤です。初めまして」  ショウの名刺を両手で受け取る仕草から、真面目そうな人柄を感じ取った。細く長い指に見とれ、システムを簡単に説明する。  時間制で、パック料金あり。最長六時間。宿泊は別料金。身体を触ったりキスもそれ以上も可能だが別料金。本番は無し。基本料金は前金制。  予約をする時に了解済みの事柄ばかりではあっても、事前に伝えることになっていた。無用のトラブルを避けるためだ。  彰人は頷いて、六時間分の決済をカードで済ませると、ショウをリビングルームに通した。

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