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第60話
土曜日まであと二日と迫った木曜の夜、届いたLINEにショウはスマホを取り落としそうになった。
ただでさえ胃の痛くなる『中嶋様から指名』の文字の後に、土曜日が希望と書かれていた。
反射的にショウは「土曜日は予約が入っているので不可」と返信したが、マネージャーからすぐに「大澤様の予約は土曜の夜中だから対応可能なのでは」と返事が来た。
「そうだけど……」
つい声に出してしまうと、ホテルのラウンジでテーブルを挟んで向かい合わせでコーヒーを飲んでいた朝倉和巳が「どうかした?」と怪訝な顔をした。
朝倉は三十代前半のサラリーマンで、仕事の帰りということでスーツ姿だった。朝倉と会うのは久しぶりだ。妻帯者である朝倉が予約を入れる時はいつも、妻が友達と旅行したり実家に帰ったりで、一人で家に居る時ばかりだった。
ショウは手早く、「とにかく土曜は不可」と返し、「接客中」と送ってスマホを仕舞った。
「すみません。会社から連絡が入っちゃって」
「指名の予約?」
ショウは曖昧に微笑んだが、「いいことじゃない」と人好きのする笑顔を見せた。
そう、喜ばしいことのはずだ。指名が入ればその分収入も増える。だからこそこれまで中嶋とのデートを我慢してきた。こちらには客を選ぶ権利などない。
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