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第12話

「何してるんですか!」  名前を呼ばれて顔を上げると息を切らした兼子君が立っていた。 「……え? いや、ここのところ忙しくて、ずっと畑の手入れ出来なくて荒れてたから……」    雑草を抜いてました。なんて思わず答えちゃったけど、なんでここにいるんだろう? 真っ昼間の野外で流石に夢見てないよね? 「倒れたんじゃないんですか?」 「……今日僕は在廊日じゃないから、お休みもらってるんだけど……」 「……そう……なんですか……よかった」  もしかして心配して来てくれたんだ。個展見に行ってくれたのかな? 優しいな。言えないけどまた姿が見れて嬉しい。 「ありがとう。僕は大丈夫だから……」 「個展会場であいつに会いました。恋人じゃないんですね」  バレちゃったか……まあ仕方ない。 「うん。ごめんね。咄嗟に嘘ついちゃったから友達の辰王にお願いしたんだ」 「改めてお願いに来ました。俺を恋人にしてください」  兼子君は真っ直ぐに僕を見て言ってくれた。その姿が本当に眩しくて切ない。 「……ありがとう。でも答えは前と同じだよ。ごめんね。兼子君みたいな綺麗で若い男の子にそんなこと言ってもらえて本当に嬉しかった。ありがとう」 「……理由を教えてください」 「理由なんか……僕と兼子君は15も年が違うんだよ。近い将来必ず君は後悔する。そんな恋愛怖くて出来ないよ。それに僕はもう恋人は作らないと決めているんだ。仕事がすっごく楽しいからね。恋愛は来世で堪能するよ」 「あんた芸術家のくせにつまんないこと言ってるね」  兼子君の顔色が変わる。怒ってる。怒っているのにすごく綺麗。またあの香りが強く芳香する。 「一生ひとりでいる位の覚悟があるんでしょ? ならちょっとでもいい時があったんなら良くない? 50になったら35の俺に捨てないでくれって縋りつけばいいじゃない? それで捨てられたからってなんなの? 15年も大恋愛したってことでしょ? そんなのねーー男女の夫婦だって滅多にないよ。生まれ変わったら恋愛するから今世では諦めるって? 来世なんかないよ! あったってあんたまたネチネチ理由つけて恋愛なんかしやしない!」  全てを見透かしている綺麗で力強い瞳。そう、全部その通りだ……僕は臆病でずっと逃げてばかりだ。 「諦めて体験してみなよ。だってあんたずっといやらしい目で俺を見てるじゃない」  兼子君が近づいてくる。体が硬直して動かない。 「見てないよ……」 「ふーん。そう?」  自分を覗き込む綺麗な黒い瞳。強い芳香にくらくらする……見てる。本当はずっと見てるよ。ずっと君に惹かれてる。 「……兼子君ってこんなにしゃべるんだね……」 「必死だからだろ! なんでもいいよ! お願いだからうんって言ってよ! ちゃんと俺を見てよ! なんにも考えないで! 世間体も年も、男同士だってことも! 全てフラットな状態で俺が嫌いで触られるのも嫌だ! って言うなら諦める!」 「そんな言い方ズルいよ……」 「あの黒百合、俺だよね?」  強い腕にぎゅっと抱きしめられた。 「あれ見た時すっごい愛を感じて自信が沸いた」  もう無理。好きすぎる……。 「ね? 俺のこと好きだよね?」  強い香りの中で頷いた。 「俺のこと少しは信用してよ……」 「土が付いちゃうよ……」  畑仕事をしてたから泥だらけなのに……。 「いいよ。あなたの手でもっと俺のこと汚してよ……」

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