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第11話
日本橋の老舗デパートのアートギャラリーでの個展。そこそこ大きな会場、しかも平日なのに人が多いわねーー大抵は咲耶の常連のファン(主におばちゃん)なんだけど例年と違う雰囲気にみんな驚いてるわねーーでも好評みたいーーそりゃあねーー迫力が違うもの。ほんと分かりやすくて笑っちゃうーーここにいるお花たちが、あの子が大好き過ぎるーーって叫んでるみたい。あら! あの後ろ姿! もしかして!
「すごいでしょーー? あの子、ほんと単純で分かりやすいわよねーー」
呆然と会場の真ん中で立ちすくんでいる僕ちゃんを見つけて肩を叩いた。やっぱりいい男。ほんと咲耶って面食いね。
「あんた誰だよ?」
不審そうにあたしを見ている。尖った感じも若くていいわーー。
「ひどーーい! こんな美人忘れちゃうなんてなんて冷たいのーーこのハタチの男の子ちゃんは!」
あたしが、あまりにも綺麗になっちゃったから、わかんないのねーーダメな子ちゃん。
「お前!?」
「ちょっとこっちいらっしゃい」
そのまま腕を引いてバックヤードに連れ込んだ。やだ! 連れ込むなんてドキドキしちゃう。
「女装趣味もあるのか……」
「失礼ね! 趣味じゃないわよ。本職よ!」
「どうでもいいよ。何の用事だよ」
「あたしも、こんなおせっかい、ほんとはどうかとは思うんだけどーー私は咲耶が大事であんたなんかどうでもいいわけ」
「喧嘩売ってんのか?」
あーーゾクゾクする。睨んだ顔もセクシーねーー。
「咲耶のことが好きなんでしょ?」
「なんでお前にそんなこと言わなきゃならないんだよ」
「答えなさいよ! ここで言っとかなきゃ一生後悔するわよ」
「好きだよ! 相手にされなくったって、あんたのもんだって知ったって好きなんだ!」
よしよし良く言えました。まあ、いいとこかしらね。
「いい綺麗な男の子ちゃん! ここで覚悟なさい。咲耶が50になった時に捨てたら生皮剥いで殺すからね」
「……あんた紀伊さんの彼氏じゃないのか?」
「彼氏よりもずーーーーっと濃密な関係よ」
そう。あんたたちがくっついたり離れたりしたってあたしはずっーーと咲耶と一緒にいるんだから。
「捨てるわけない。俺は会えなくったって10年間ずっと好きだったんだ! それくらいで気持ちが冷めるわけないだろう!」
「……まあ、いいわ。一応、及第点ってとこかしらね。じゃあこれあげる」
男の子ちゃんの両手をとって咲耶の家の鍵を渡した。ついでにぎゅっと、にぎにぎしとこ。これくらいは役得よね。
「お花畑の王子様は過労で倒れたわよ。今日は工房にいるわ」
もう! 若いわねーーお礼も言わないで行っちゃうんだから。あらいっちゃうなんてちょっと卑猥。まあ倒れたのは2週間前なんだけど嘘は言ってないわよね。
だってこんな花見せられちゃねーーお節介もしたくなるわよーーメインに飾られたすっごい色っぽい艶のある大きな黒百合。あの子にしか見えない。
咲耶には幸せになってほしいのよね。男の見る目がないあたしに言われたくないと思うけど、いい男だと思うんだわーー。
あら? 彼氏さっき10年って言ってたわよね? どー言うこと? まさか10歳からってこと???
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