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第7話
撮影がすんで縄を解かれた僕は、その場に座り込んで動けなくなっていた。改発が、僕に自分のシャツをかけてくれたが、僕は、それを払い除けた。
「レイちゃん・・酷い目にあわせて、ごめんなぁ。でも、仕事やさかいに、勘弁してくれはるか」
「・・一人に、してくれますか・・」
僕は、うつ向いたまま、顔も上げずに言った。改発は、言葉を飲んだ。カメラマンの中村さんが改発に声をかけた。
「行きましょう、改発さん、そっとしといたほうがいい」
機材が片付けられ、人々がスタジオを去った後も、僕は、動けなかった。
僕の体は、縄の跡がつき、他にも、いっぱいあざや擦り傷がついていた。少し、体を動かすと、後孔からどろりと精液が溢れ出てきて、僕は、呻いた。
「んっ・・」
僕の体は、僕自身と、あの二人の精液に汚れていた。涙で前が霞んで、僕は、ため息をついた。人気のなくなったスタジオは、ひんやりとしていて、僕は、ぶるっと体を震わせた。
早く、立ち上がって、シャワーで体を洗いたかったけど、立ち上がることができなかった。
僕の肩に、誰かが、ジャンパーをかけてくれて、僕は、顔を上げた。沢村、だった。
「風邪ひくぞ」
「沢村さん・・」
僕は、掠れた声で言った。
なぜ。
僕は、ききたかった。
なぜ、僕を助けてくれなかったのか。
だけど、僕には、わかっていた。
これは、仕事、だ。
彼らにとっては、ただの仕事に過ぎない。
僕は、ゆっくりと立ち上がろうとした。でも、よろめいて立ち上がれずに、転びそうになった。
「危ない!」
沢村が、僕を支えてくれた。彼は、そのまま、僕をぎゅっと抱き締めた。
「すまなかった。レイちゃん」
僕は、彼の肩が震えているのを黙って見ていた。
しばらく、僕を抱いていた沢村は、その後、僕を抱き上げて、バスルームへと連れていった。彼は、黙ったまま、僕の体をシャワーで洗い流した。
濡れた僕の体をバスタオルで拭きながら、沢村は、僕の体につけられた傷を指で一つ一つ辿っていった。
「あっ・・」
沢村は、僕の傷に口づけした。僕は、彼が僕の全身につけられた傷の全てに口付けづることを許した。
沢村は、僕に服を着せてくれると、僕にきいた。
「ホテルに帰って休むか?」
僕は、頷いた。
沢村は、タクシーを手配してくれ、僕を宿泊しているホテルへと連れ帰ってくれた。彼は、部屋まで僕を抱いていって、ベットへ寝かせてくれた。彼は、横たえた僕の側のベット脇に腰かけていた。僕は、彼の背中を見つめていたが、やがて、泣きながら眠りに落ちていった。
翌朝、僕が目覚めると沢村は、僕の眠っているベットの脇にもたれかかって床の上で眠っていた。僕は、眠っている彼の顔を床にしゃがみ込んでじっと見つめていた。しばらくすると、沢村は、僕の視線に気づいたのか、ゆっくりと目を開けた。
「起きたのか」
沢村は、僕に言った。僕は、頷いた。沢村は、僕にきいた。
「体、大丈夫、か?」
「うん」
僕は、頷いた。ずいぶんと、酷いことをされたわりには、痛みもあまりないといえた。心の痛み以外は。僕は、沢村にきいた。
「なんで、撮影の内容、僕に教えてくれなかったの?」
「それは、相手役が俺以外で、しかも、二人だったってこと?それとも・・」
沢村は、俯いて、黙り込んだ。僕は、彼が話すのを待った。沢村は、顔を上げると、僕を見つめて言った。
「あのときの撮影の内容は、俺も知らなかった。というか、俺の知らないうちに改発さんと社長が話し合って変更したらしい」
沢村は、続けた。
「前日に、改発さんに、責めを改発さんがやるということをきかされた。あの人は、プロの調教師でもあるし、この業界じゃ、不動の人気を誇っているから、売り上げを考えたらその方が会社にとっては、よかったんだが・・俺は、反対した」
「なんで?」
僕は、沢村にきいた。彼は、僕から目を反らして言った。
「改発さんの責めは、熾烈だ。何年もこの仕事をやっている男優でも、堪えられないことがあるほどだ。俺は、お前を改発さんにまかせたくなかった。だけど、社長も、改発さんも、譲らなかった。俺は」
沢村は、ぽつりと呟いた。
「お前を守れなかった」
「沢村さん・・」
僕は、沢村の隣に並んで座った。僕たちは、しばらくの間、そうして窓の外を見ていた。ベランダの向こうに美しい朝焼けが見えた。それは、僕の心に焼き付いた。僕は、沢村の手を握った。
「レイちゃん・・」
沢村は、僕の手を握り返した。僕たちは、いつまでも、その美しい景色を見つめていた。
三泊四日の沖縄ロケは、こうして終わった。僕は、帰りの飛行機の中でも、沢村の隣に座った。他のスタッフとは、あまり話は、しなかった。改発は、いつもみたいに僕に話しかけてきたけど、僕は、うつ向いて、やり過ごしていた。
社長は、会社の最寄りの駅で解散するとき、沢村に僕を送っていくように命じた。沢村は、前に送ってもらったときみたいに、僕の前を黙って歩いていった。
僕は、彼の背中を見つめながら、なぜだかわからないけれど、急に、彼を抱き締めたくなっていた。
彼も、また、傷ついていた。
僕のために、傷ついた沢村。
それでも。
彼は、僕が凌辱されているとき、一瞬も、目を離すことなく、僕の姿を見つめていた。まるで、全てを、記憶に刻もうとするように。
僕は、沢村の隣に並んで歩くと、彼の手を握った。沢村は、僕を見つめた。僕は、彼を見つめて言った。
「僕、大丈夫、だから」
「えっ?」
沢村が、僕をじっと見つめた。僕は、彼に言った。
「僕は、大丈夫。沢村さんが、見ててくれたから、堪えられたんだ」
「レイちゃん」
沢村は、しばらくの間、僕を見つめていたが、やがて、ふっと笑って言った。
「生意気言うな、また、泣いてたくせに」
彼は、そう言って、僕の頭を撫でた。
「もう、他の奴に、お前を泣かさせたりしない」
「うん」
僕は、頷いた。
この前と同じように、僕は、沢村にうちのアパートの近くまで送ってもらった。別れ際に沢村は、僕をぎゅっと強く抱き寄せてキスした。
僕は、家に帰ってから、沢村の熱を思い出して、熱い吐息を漏らしていた。
「沢村さん・・」
僕は、呟いて、彼が触れた唇に指をあててみた。まだ、そこには、彼の温もりが残っているような気がした。
僕は、いったい、どうしちゃったんだろう。
そう、僕は、考えていた。
彼も、僕も、男同士なのに、彼のことを思うだけで、こんなに、切ない気持ちになる。
僕は。
僕は、頭を振った。
考えても、仕方がない。
正しいのは、今ある気持ちだけだった。
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