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出会いの話/寒凪⑵

「これオーダーが通ってないってさ。今連絡あった」 「あっ…はい、すぐに確認します!」 それ、俺の担当じゃないけど。 「請求書の金額間違ってたみたいだから直して再発行な」 「え…ぁ、はいっ」 請求書作ったのお前だろうが。 今日も世界は俺に優しくない。 俺の住む世界というのは、多分かなり古臭くて 立場が上の人間には絶対服従を誓うような胸糞の悪い場所だ。 誰もが一度は耳にした事のある有名な社名。 一部上場企業であり、都会でもひときわ目立つ大きなビルの高層階。 原料から製品、機械…それらの全てを扱う関連会社は国内のみにとどまらず、世界各国に存在する。 そんなご立派な場所で、どうして俺のような落ちこぼれが働けているのかというと… αである事こそが採用基準という、まさに国を代表する大企業らしい理由があるからだった。 右を見ても左を見ても、前も後ろもどこもかしこも この場所に存在する人間は皆αなのだ。 そして、俺も。 さて、ここで一つ問うが あなたは働きアリの法則というものを知っているだろうか。 別名2:6:2の法則とも言われているらしい。 よく働くアリが2割、普通のアリが6割、働かないアリが2割。 よく働くアリだけを集めたところで、どうしたものか集団の中で再び2:6:2が完成してしまうという不思議な法則だ。 それはこの世の3つの性別にも言える事だった。 一見優秀であり、どんな仕事も簡単にこなせてしまいそうなαも その空間にαしかいなければその中ではっきりと優劣が付き、区分される。 それに加え、この職場内カーストだ。 言わずもがな働きアリ…いや、働かされるアリである俺はカーストにおいても最下層であり、雑用から上司の尻拭いまでもを押し付けられる日々を送っていた。 今夜は一人酒確定だな。 何時間残業すれば終わるだろうか。 あー…違う、それよりオーダー。まだ商社の始業時間前なんだけどな。 時間外の連絡先に書かれてるジジイ威圧的だから苦手なんだよ…。 請求書は…メールで済むし、まずはそっちだ。 1日のうちで何人に怒られ、何度謝り、頭を下げるのかなんて いつか考える事を放棄した。 お陰で俺の頭は常に下を向いている。 若干24歳にして謝りすぎで背中が曲がる…か。 はは、笑うしかないな。 俺なんかよりもよっぽど高性能なPCの立ち上がりと共に、メールのアイコンをクリックした。 無意識のうちに癖付いてしまったらしい 噛み潰した下唇が痛い。

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