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出会いの話/寒凪⑶
1時間のうちの40分ほどを上司からの頼み事に費やし、残り20分の貴重な昼休み。
それすらもデスクで依頼書を作成しながら、いい加減味に飽きた麺を啜って過ごした。
「いや~、澄晴が全部やるから俺仕事ねぇわ~」
「ははっ、あいつお前の言いなりだもんなw」
「どこが澄んでるんだよ。淀んだ曇り空じゃねえかよ~」
聞こえてるぞ。
…あぁいや、聞こえるように言っているだけか。
どうして俺はαなんだろう。
そう、毎日のように考えている。
性別ごときに左右される世の中でなければ
俺は人並みに仕事をこなし、工場だろうと販売だろうと、それなりに頑張って平々凡々な人生を送るはずだった。
それなのに。
“すばる君すごい!さすがαだ!”
“すばる君が言ったんだから、こっちの方がいいに決まってるよ!”
“ごめん、さっきすばる君に誘われたから君とは帰れないや…”
ふと、学生時代の思い出したくもない記憶が蘇る。
第二次性判明後、目に見えて態度を変えた友人たち。
“俺は俺だよ。
普通に仲良くしたいだけなのに。
どうして俺を優先するの?
どうしてみんな、俺の言いなりになっちゃうの?
俺はただ、みんなと今までと変わらず過ごしていきたいだけなのに──…”
俺は、誰かに意見する事を辞めた。
俺は絶対じゃないから。
洗脳的で宗教的な世界を生きていたくはなかったから。
そんな自責の念に駆られ続ける学生生活を送り、
ついに就職活動だという時、一番に目についたのが今の職場だ。
俺のせいで周りが蔑ろにされるような、気持ちの悪い世界からようやく抜け出せるんだ…!
そう思えば途端にやる気に満ちて、必死で勉強をした。
いつの間にか乏しくなっていたコミュニケーション能力を補えるよう、面接対策の教本を山ほど購入した。
そして見事採用。
しかし、そこで待っていたのはまたしても地獄のような日々だったのだから
神様は俺の事を酷く嫌っているに違いない。
学生からすれば決して安くはないSPI対策の問題集や、企業の様子を描かれた雑誌も
今となっては全てゴミと化し、当時の努力すら無駄だったと後悔する有様だ。
同じαでも、俺はここの連中みたいに
誰かを罵り、見下すような人間にはなりたくないな。
人を笑うくらいなら、笑われている方がまだマシだ。
身体に悪そうな、けれど旨味を凝縮させた残り汁を余すことなく飲み干して
再び仕事に取り掛かる。
ようやく終わりが見えたのは、定時を大きく過ぎた20時半の事だった。
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