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出会いの話/嘘⑴
パトロール…なんて名前だけ。
要は俺に知られたくない姑息な事をしている輩による厄介払いを受けた俺は
繁華街からほど近い細道を歩いていた。
時刻は21時。
良い時間だ。
職質でも引っ掛けてうまい具合に事が進めば、早い所出世が出来るだろうか。
βだらけの小さな駐在所で、俺は正直物足りなさを感じている。
もっとやれるのに。
こんな所で出来損ないとつるんでいる時間はないのに。
努力して、上に行って、何も言われない立場まで上り詰めなければいけないのに。
小さな公園の前を通りかかると、薄暗い街灯に照らされたスタンド型の灰皿が目についた。
新品の箱のフィルムを剥がし、念のため辺りに人気が無いかの確認。
喫煙は何も悪い事ではないが、制服を纏っているだけに
必要以上に気を働かせてしまうのだ。
そして、もう一つ…決して人には言えない理由も含んでいる。
「ふぅ……」
紫煙を吐き出すというのが正解か、ため息というのが正解か。
自分でもよくわからないまま、肺いっぱいに行き渡らせたそれを深く吐き出す。
1日2箱まで。
それ以上はダメだと、これでも自制している方だ。
逐一事務所を抜け出して、屋外の喫煙所まで向かうのでは
いつかおサボりだとでも言われそうで
何より、金銭的な問題が生じる。
ただでさえ自身の服用する常備薬は、保険適用外の強力なもの。
それに加え、匂いを臭いで消す為に用いるサブですら頻繁に火をつけているようでは
貯金はおろか、収入以上の消費を伴うのだから。
だがまぁそれでも、バレるよりは良いだろう…と
開き直ってしまうのだが。
今は、まだ。
人に知られては困る。
「~~っ」
日常的に襲い来る強い頭痛は、疑うまでもなく抑制剤による副作用だ。
身体の気怠さも、その類か…もしくは度重なる喫煙による酸欠か体力の低下だろう。
……本当に、使えない身体だ。
どうして、俺はこんな性別に生まれてしまったんだ。
残り僅かの短い筒を灰皿の淵に擦り付け、
つい出そうになった欠伸を慌てて噛み殺したその時。
「あぁ~~くっそ!!がぁっ!!」
?!
気の抜けていた肩はびくりと跳ね、反射的に音のした方へ身体が向く。
と、視界の先で捉えたのは…
クシャりと捻り潰した缶を片手に錆びれたブランコを揺らす
何とも辛気臭いスーツ姿の男だった。
冷え込んだ夜の公園。
人もあまり寄り付かないこの場所で、破壊行為と突然の叫び声。
酔っ払いにしても酷い。
俺はすぐさま声を発した男の元へ駆け出したのだった。
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