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出会いの話/嘘⑵

「身分を証明する物はお持ちで?」 「は、ぃ…免許証なら…」 「ふむ…なるほど、綾木澄晴さんね。 一応こちらも仕事なので、所持品を見せていただいてもよろしいですか?」 「ど、ぅぞ……」 少しばかりふらつく男の目は、控えめに言っても光一つ宿さぬ疲れ切った様子で 力なく背を曲げ、頭を下げる姿は人の同情心を誘うにはもってこいだった。 ごく自然な流れで裏面を確認するも、過去の運転による違反の形跡も無ければ年数に準じた更新で得たゴールドラインを引かれた免許。 いたって普通の、真面目な会社員といったところだろう。 勿論、所持品には怪しさの欠片もない。 完全に俺にビビってはいるものの、後ろめたさを感じさせる態度というわけでもない。 …はぁ。なんだ、ただのストレスを溜め込んだリーマンじゃないか。 見誤ったな。時間の無駄だ。 「ご協力ありがとうございました。 大きな声が聞こえたもので、つい…」 礼と詫びを兼ね、自分より少しばかり背の高いその男に軽く頭を下げる。 変に因縁をつけてくるような輩ではないといいが。 僅かながら不安を抱き、帽子の影から目線だけを上に向けると、男は眉を下げたまま両手を前に出し へらへらと笑っていた。 まともに疑ってかかった俺が言えた事ではないが 疲れを酒で紛らしていた所にバンかけられて、よくそんな風に笑っていられるな。 悔しくないのか。変な奴だ。 「あ、はは…誰もいないと思って思わず…。 強くも無いのに…外で酒はダメですよね。申し訳ありませんでした…」 「い、いや…別にそこまで言っているわけでは…」 「いいんです、わかっているので。結局飲む事くらいでしか気を紛らせない僕が悪いんですし…明日も地獄ってわかってるのにこうやって現実逃避みたいに一人で公園で飲んではお巡りさんにご迷惑までおかけして…本当、どうしてこんな人生送らなきゃいけないんだ………ぅ、ぅう~~…っ」 変な奴どころではない。 これはとんでもない奴に出会ってしまった。 面倒くさいセンサーを装備した俺の眉間は、先ほどから忙しなく痙攣を繰り返している。 男は見事に折り畳まれたチューハイの空き缶を片手に、ついにボロボロと涙をこぼし始めたのだった。

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