ここでいいと駄々を捏ねる来碧さんを無理やり抱え、彼にはあまり似合わない安物のベッドへと運んだ。 家が狭くて不満を感じる事は数え切れないほどあったが、良かったと感じたのは今日が初めてだと思う。 曲がりなりにも現役警官である彼を持ち上げ、特に鍛えているでもない会社員の俺が部屋を移動するなど不可能。そもそも、そこまで理性が持つとは到底思えなかった。 「…来碧さん、薬は？飲んでないの？」 「飲んだ、けど…。綾木さんの家、入ったら……も、ダメだった…っ」 来碧さんは、俺の緩んだネクタイに指をかけてぐんと顔を引き寄せる。 潤んだ瞳に映る俺は、まさに腹を空かせた獣だ。 「この、匂い…。綾木さんの…俺、我慢出来なくて…っ」 「…ん゛？」 えーと、あぁこれ。なんて言うんだっけか。 普段の彼とは思えない蕩けた表情。激しいギャップ、見たこともない乱れた姿を言い表すには…。 「…ドエロいな、あんた」 悪いがまともじゃない頭では、その言葉に辿り着くので精一杯だ。 だが、この日このタイミングで俺の家にやってきた彼の考えに見当も付かないほど俺は純粋無垢ではない。 これでも一応は、成人して随分と経ついい歳の大人なわけだ。 そんな俺と歳の変わらない彼が、こうして自ら恋人の家でヒートを起こして待っていたという事は。 「……あの日の、約束。 俺のいいように解釈しても、大丈夫ってこと？」 噛んでも良いと言われたクリスマスイブの夜から、何とか都合をつけては会う頻度を増やした。 あれ以来身体を重ねた事は無かったが、共にする時間の中で、以前より互いの事を知っていったとは思う。 それでも、離れないでくれたのは来碧さんだ。 離れたくないと思ったのは俺だ。 …今日は、二人にとって一生忘れられない日になる。 「痛かったり…怖いって思ったら、ちゃんと教えてね、来碧さん」 真っ赤に染まる顔を何度も縦に振る仕草は、俺の腹の奥底で燃える炎へ更に油を注ぎ込むように煽りたてた。 震える指先がネクタイを引き抜き、ザラついた太腿が俺の尻を挟む。 彼の零した吐息すらも逃さないよう 火照る唇に噛み付いた。