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そして、その日/嘘⑵
気持ちよくて、熱くて、もう…溶けそう。
自分の手によって十分解れたナカを、綾木の指が再び押し広げる。
行為に怖気付かないわけがない。
今までずっと、恐怖でしか無かったものなのだから。
でも、不安に押し潰されそうになった時
綾木の背中にしがみつく手が爪を立てた時。
「来碧さん…痛い?平気?」
俺より不安気な顔をして覗き込んでくる誰かさんのお陰で、そんなものは何処かへ消えた。
心配する言葉と裏腹に、硬く反り上がった昂りは急かすように俺の脚へ押し付けられているのに、だ。
まさかこの世界に、こんなに優しい人が居るだなんて思っても見なかった。
αは敵だ。
βだって同じ。
仮面を取った本当の俺なんか、オナホにしか見られないんだ。
そう思って生きてきた24年間で、綾木だけが違った。
はじめは雰囲気からしてΩか、αに罵られる可哀想なβだと思い、近付いた。
自分のように差別に苦しむのなら、手を差し伸べてやりたいと思ったから。
でも、それは間違いだった。
彼はこの世で最も優遇される対象であり、支配権を与えられたαの性を持ちながら
自分以外の大多数を思い、自らを殺して生きていた。
なんて馬鹿らしいと思う。
なんて勿体無いと思う。
けれど、彼にはそれだけの強さと優しさがあったのだ。
だから俺は、こうして一つも後悔する事なく
彼に身を委ねることが出来る。
「綾木…っ、もういいから……早く、挿れて」
恥じらいも遠慮も捨てた果てで、綾木の確かな熱を求めた。
綾木の欲を、俺に全部ぶつけてほしい。
綾木の証を、頸に刻んで欲しい。
口にする余裕も無いのに次々に溢れ出す願望は、喉の奥で留まり、代わりに嬌声ばかりが外へ出る。
卑しい?そんな事知らない。
俺はただ、ただ。
「綾木さ…ンっ、全部……俺に、ちょうだい」
あなたが欲しい。
──律儀にベッドサイドの引き出しから小さな袋を取り出す姿すら、俺を大切に想ってくれているとわかって嬉しかった。
そんなもの必要ないだなんて淫乱めいた事はまだ言えない。
綾木の優しさを無下に出来ない。
今は、綾木に甘えられるだけ甘えて
綾木に追いつけるよう、綾木に全て預けられるよう、綾木だけを見て。
「あんま…持たなそう、だけど…っ。笑わないでね…?」
ぴたりと後孔に宛てがわれたものは
収まりきらないのではないかと不安になるほど質量を増しており、唾液を飲み込む喉が、必要以上の音を立てる。
「ん…ぅんっ、は…ぁあっあ、!」
初めて綾木の意思で押し込まれたそれは
俺が記憶しているものよりずっと熱くて大きくて。
形まではっきりとわかってしまう温度に、我慢していた涙が溢れた。
幸せだ。
俺、こんなに…幸せ。
身体だけじゃない。心の底から、綾木と繋がれて
すごく、すごく。
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