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そして、その日/嘘⑶
自分から出ているとは思えない、酷く甘ったるい声。
それに反応するかのように、ナカで大きさを増す綾木のものをきゅうきゅうと締め付けた。
「来碧さ…んな、締めたら……すぐイっちゃ…っ」
綾木の限界はそう遠くはないようだ。
それもそうだろう。俺の匂いの立ち込める空間で、平常心でいられるはずがないのだから。
別の誰かに対しては、恐怖や嫌悪感でしかなかったそれも
綾木相手だと強烈な興奮材料になる。
俺でもっともっと善くなって欲しい。
他の誰とも味わえないくらい、深く酔いしれてほしい。
「もっと…激しく、して…奥で、イって…っ」
綾木の目が、ギラリと妖しく光る瞬間を見逃しはしなかった。
俺を突き上げる力は強まり、掴まれた腰は痛みを伴いながら綾木の指を埋める。
先ほどまでの俺を気遣う緩やかな動きではなく、自身を腹の奥深くまで届かせようとする攻撃的な律動が繰り返される。
嬌声と水音の合間に聞こえるのは、綾木と俺の肌がぶつかる平たい音。
綾木の視線は俺の目元から外れ、汗で張り付く襟足の向こう。
ある一点に定まった。
ようやく、その時が来る。
心も、身体も、理性も、本能も、何もかも、貴方のものになれる時が。
「……綾木、さん。
俺の事…っ、好き?」
この後に及んで、なんて馬鹿げた問いかけだ。
きっと綾木もそう思ったに違いない。
それでも、俺は知っている。
綾木は、人に馬鹿にされる事はあれど、決してその逆はしないと。
俺と違って、隠し事をせず、嘘もつかない
とても素直で真っ直ぐな人だと。
だから俺は、そんな綾木に全てを捧げたいと思ったのだ。
「好き。全部好きです。
この先ずっと、一生、未来永劫…大好き」
耳元で紡がれた綾木の言葉は
死ぬまで頭に残り続けるんだろう。
言葉と、痛み、刻まれたであろう消えない証。
それらの全てが、温かくて満たされる。
傷を見る度に、今日この日、綾木の腕に包まれた感覚を思い出すんだろう。
「俺と、生きて」
俺から出た言葉なのか、それとも綾木からなのか。
それすらもわからない程、俺達の距離は近い。
互いに落ち着きを取り戻してもなお
硬く抱き締めあった腕の力が緩まる事はなかった。
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