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『もしもし、陸斗くん?』
耳元から聞こえてきた、西園寺さんの声。
それに少しだけドキドキしながらも、平静を装い答えた。
「はい、陸斗です。
すみません、急に連絡なんてしてしまって……」
本当に謝りたいのは、こんな事じゃないのに。
……上手く言葉が、出てこない。
『ううん、それは全然大丈夫。
……それより本当に、ごめんね。
事情は、聞いたよ。
うちの二見が君に対して、失礼な真似をしてしまったみたいで』
先に謝罪の言葉を口にされ、ますます途方に暮れる僕。
そのため僕がまだ怒っていると思ったのか、彼はまた小さな声でごめんと告げた。
この人は何も知らなかったのだから、悪いのはハラちゃんと、西園寺さんの事を一方的に責め立てた僕の方なのに。
「あなたは、謝らないで下さい。
僕もさっき、ハラちゃんから聞きました。
西園寺さんはあの件に、全く関わっていなかったんですよね?」
気まずい空気に堪えられなくなり、わざと明るい声色で聞いた。
すると西園寺さんは少しホッとしたのか、いつもみたいな柔らかな口調で答えてくれた。
『うん、関わってないよ。
けどそれもこれも、俺のせいだとは思うから。
でも、これだけは信じて。
‥‥君の事を守りたいとは思っても、可哀想だなんて感じた事は一度もないよ』
きっとこれは、嘘偽りない言葉なのだろう。
そう思えたから、僕もようやく素直な気持ちを口にする事が出来た。
「ありがとうございます、西園寺さん。
とはいえあなたに守られなければならないほど、僕は弱くないですけどね。
……こちらこそ西園寺さんの話を聞かず、一方的に怒ってごめんなさい」
驚いたように、スマホの向こう側で、彼が息を飲む気配を感じた。
「それと土曜日に西園寺さんが家に来てくれるの、僕も楽しみにしていますから」
勢いに任せ、早口で続けた。
だけどそこで急に恥ずかしくなり、返事を待たずに電話を一方的に切ってしまった。
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