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***  そして迎えた、約束の土曜日。  家族が温泉旅行に朝早く旅立つのを見送った後、僕はいつものようにアルバイト先である弁当屋へと向かった。  だけど今日は14時上がりだったから、西園寺さんを迎えるため帰宅後はいそいそと掃除だのデザート作りだのに精を出した。  最初彼に合わせて、何かコジャレた料理を作ろうかとも考えたが、求められているのはそういうのじゃないだろう。  それにきっとそういったご馳走は、彼は食べ慣れているに違いない。  結局散々迷った挙げ句、いつもとそんなに変わらない献立‥‥‥肉じゃがと豚汁なんていう、何の捻りもない平凡なモノになってしまった。  しかし西園寺さんに求められているのはたぶん、こういう普通の食事なのだろう。  そうこうしていたらあっという間に約束の18時を迎え、インターホンが鳴った。  とはいえうちのそれはちょっと壊れかけているから、情けない事に綺麗な音色を奏ではしなかったけれど。  玄関のドアを開けるとそこにはピシッとスーツを着こなし、真っ赤な薔薇の花束を携えたキラキラまばゆい西園寺さんの姿。  ‥‥‥この場にそぐわない事、この上ない。  それがなんだか可笑しくて、思わずプッと吹き出した。 「今日はお招き頂き、ありがとう」  蕩けそうなほど甘い笑顔でそう言うと、僕に向かい差し出された花束。  だからにっこりと微笑み、答えた。 「ありがとうございます、西園寺さん。  だけど家にはこんな立派な花束を飾れるような、御大層な花瓶は置いていないので、今後は本当に。  ……ほんっとうに、お気遣いなく!」  事実その通りだったから、頂いた花束は細心の注意を払いながら倒れないように、二人で協力して鮮やかな水色のチープなポリバケツへと立てられ部屋の角に飾られた。 「これが陸斗くんと俺の、初めての共同作業だね」  照れ臭そうに言われ、あまりの気持ち悪さにどう反応したら良いか分からず、西園寺さんがうちに来てまだ5分と経っていないというのに既に後悔の念に襲われた。

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