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「いつものにこにこ弁当の黒いエプロンも良いけれど、今身に着けている緑のチェック柄のエプロンも良く似合っているね」
恍惚とした様子で言われ、今度は我慢する事が出来ず、つい本音が零れ出てしまった。
「ありがとうございます。
でも西園寺さん、今日もやっぱり本当に気持ちが悪いです」
だけど彼は気を悪くするでもなく、嬉しそうにいそいそとスマホを取り出すと、さも当たり前みたいな顔をして僕の姿を写真に納めようとした。
だから僕はカメラのレンズ部分を手で覆い、にっこりと微笑み言った。
「堂々と盗撮しようとするの、マジでやめてください。
今度見付けたら、速攻で追い出しますよ?」
すると西園寺さんは残念そうに、眉尻を下げて言った。
「えー……それは、困るな。
でも今の陸斗くんの姿、写真に撮りたいし......。くっ......!」
そんな下らない事で綺麗な顔面を歪め、苦悶する彼の表情があまりにも可笑しくて、思わずプッと吹き出した。
「ほぼ準備は出来ているので、西園寺さんはソファーに座って待ってて下さい」
そう促したのだけれど、彼は真顔で答えた。
「嫌だよ、そんなの。
君が料理しているところ、見たい。
一分……ううん、一秒たりとも見逃したくない。
写真が駄目だって言うなら、心のカメラに焼き付けないと!」
……どんだけ僕の事が、好きなんだよ。
本当に気持ちが悪過ぎるし、拗らせたにしてもあまりにも酷い。
他は完璧なはずなのに、この残念具合……やはり人間というのは、どこかでバランスが取れるように出来ているモノなのかもしれない。
軽く引きながらも、同時に少しだけ嬉しく思ってしまった自分に困惑した。
そして断ったところでたぶん、こっそり盗み見るであろう事は想像に難くなかったから、渋々彼の申し出を承諾した。
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