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僕が料理を温め直し、器に盛り付けてお盆に乗せると、彼はそれらをテーブルへと運んでくれた。
それから彼は満面の笑みを浮かべ、テレテレと嬉しそうに言った。
「まるで、新婚さんみたいだね」
‥‥‥今さらだけど、やっぱり言動がいちいちキモいしウザイ。
だけど罵倒したところで喜ばせるだけだともう知っていたから、全力でその発言をスルーした。
向き合って座り、行儀良く二人揃って手をパチンと合わせ、いただきますと言ってから。
彼は少し緊張した面持ちで、僕の作った肉じゃがに箸を伸ばした。
西園寺さんの所作はそのひとつひとつが、まるでお手本みたいに美しい。
だから思わず、ちょっと見惚れてしまった。
「美味しい!やっぱり陸斗くんは、料理上手だね」
ひとくち口に含み、それを食べ終わると、彼は穏やかな笑みを浮かべ言った。
嬉しい反面それがちょっぴり照れ臭かったから、誤魔化すみたいに僕はボソッと答えた。
「……普通だと、思いますが」
だけど彼はクスクスと笑いながら、僕の瞳をじっと覗き込んで言った。
「ううん、そんな事無いよ!
本当に、美味しい」
西園寺さんはスッと左の手を伸ばし、僕の手に軽く触れた。
バイト先でもこんな風に触られる事は度々あったけれど、今はここはにこにこ弁当の店先ではなく、僕の自宅。
いつもならサッと避け、毒を吐いているところだけれど、変に意識してしまいその手を振り払う事が出来ない。
そんなドギマギを感じ取ったのか、彼はクスリと笑って指に指を絡めて来た。
どうしたら良いか分からず、恥ずかしくてぎゅっと目を閉じる僕。
すると西園寺さんはまたクスクスと笑いながら、ようやく手を離してくれた。
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