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「陸斗くん、着いたよ?」
恐る恐るといった感じで声をかけ、軽く僕の肩を揺らす西園寺さん。
まだ若干イラッとしてはいたけれど、のそのそとイヤホンを外し、顔を上げた。
「もう、絶対に。
‥‥‥絶対に二度と僕の名前の文字を、店名に入れないで下さいね」
微笑んで静かな口調でそう告げると、彼は蒼白の面持ちで何度もコクコクと頷いた。
だから本当はまるで納得がいってはいなかったけれど、再度店名を変えさせるワケにもいかないから、渋々ではあったが許してあげた。
お店は明るい雰囲気で、いかにもファミレスっていう感じだ。
真っ昼間から高級なお店に無駄に連れていかれても嫌だなと思っていたから、僕の提案は悪くなかったように思う。
それに西園寺さんが手掛けた、にこにこ弁当以外のお店に来てみたかったというのも本音だし。
あとここの支払いは、出来れば僕に任せて貰おう。
だってあのホテルの宿泊費などは無理でも、全部出して貰うのはさすがに気が引けるし、ランチくらいは僕だって彼にご馳走したいではないか。
しかし入口の自動ドアが開いた瞬間、僕は自身の犯した失態に気付いた。
そう‥‥‥西園寺さんの来店を目敏く見つけたらしきこの店の店長さんが、物凄い勢いで僕らのほうに向かい、駆けて来るのが見えたからである。
なんだか既視感があるなと思ったら、これは。
‥‥‥先日スイーツバイキングに行った際に山田くんがホテルの総支配人さんにやられて、恥ずかしいから止めてくれと、めちゃくちゃ嫌がって言っていたのと同じパターンのヤツだ!
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