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しかもここは高級ホテルではなく、ファミリー向けのレストランなのだ。
こんな特別扱い、悪目立ちにも程がある。
「いらっしゃいませ、西園寺さん。
ご来店のご予定は聞いて無かったように思うのですが、今日は視察か何かのためにいらっしゃったのですか?」
突然の来訪に戸惑った様子のまま、見るからに緊張したような面持ちで、作り物の笑顔を顔面に貼り付け聞く男。
慌てて西園寺さんのスーツの裾を掴み、この人をどうにかしてくれと目だけで訴える。
「こんにちは、急にすまないね。
でも今日は普通に、客として来ただけだったんだけど‥‥‥」
良かった、伝わった!
そう思ったのも、束の間。
アイコンタクトは失敗し、西園寺さんは僕の求める答えと真逆の返事をした。
そう‥‥‥西園寺さんは仕事モードの格好良い姿を僕に見せ付けるべく、キラキラまばゆい決め顔をして言い放ちやがったのである。
「店長、この店のメニューにあるモノ、全部持って来てくれるかな?
彼は俺の、大切な人なんだ。
特別なおもてなしを、頼むよ」
この、ポンコツ紳士め!
ここは普通の、ファミレスだぞ?
特別なおもてなしとか、全くいらないから。
店長さんも、めちゃくちゃ困った顔をしているじゃないか。
本当に、最悪だ。‥‥‥もう既に、家に帰りたい。
だけどそういうワケにはいかないので、フゥと小さく息を吐き、彼らの間に割って入った。
「あの‥‥‥お気遣い無く!
二人で全メニュー制覇とか、フードファイターじゃあるまいし。
そんなの二人でなんて、食べ切れるワケがないでしょう?」
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