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見逃したフラグ③
「じゃあ君の上がり時間に合わせて、迎えに来るよ。また後でね、陸斗くん」
爽やかに手を振って、今日も僕の恋人兼ストーカーは秘書の二見さんに引き摺られるようにして、高級車の後部座席へと押し込められた。
***
「いやぁ、相変わらずお熱いことで。でももう少し、優しくしてあげたらいいのに」
ニヤニヤとゲスな笑みを浮かべ、ハラちゃんが言った。
「優しくしたらあの人、すぐに調子に乗るからね。あれぐらいの対応が、ちょうどいいんだよ」
冷やかされたものだから、ますますツンツンした態度で答えてしまった。
するとハラちゃんは、ちょっと呆れたように笑った。
「まぁ当人同士がそれで良いなら、俺は別にどうでも良いけどね。西園寺さんも、嬉しそうだし」
ちなみにハラちゃんは、僕のことをドSだなんだといつも言う。
しかし真のドSとは、西園寺さんのような人を言うのだと僕は思う。
うっかりベッドの上での彼の姿を思い浮かべてしまい、顔が火照るのを感じた。
それを見てハラちゃんは、またしても嫌な感じの笑みを浮かべ、言った。
「うゎ! ……陸斗、お前そんな顔も出来たんだな。完全に、恋する乙女じゃーん!」
「誰が、乙女だよ? 僕は、男だ。っていうか、仕事しろ! 仕事!」
軽くお尻に蹴りを入れたら、彼は大袈裟に痛がるふりをして、ますますふざけて囃し立てた。男子小学生か!
「まぁでも、よかったな。感情表現が下手で、ツンデレなお前にはやっぱり、ああいう人が合うんだよ」
しばらく僕をからかい、それに満足したのかニッと笑って言われた、素直な言葉。
それがなんだか照れ臭くて、僕は彼に背を向けて無言のまま厨房へと逃げ込んだ。
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