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第45話

末息子も眠り、シェードランプの灯りを消そうとした手に声がかかる。 「美月ちゃん、今日もありがとう」 「急にどうしたの?」 「うん。 玄関を開ける時、家の中から楽しそうな声がして夕食の良いにおいがして暫く入れなかったんだ。 俺はこんなしあわせの中に帰れるんだ、って思ったらなんだか勿体なくて」 夕方から降りだした雨がシトシトと足元を濡らす中、玄関ドアを開けようとした手がふと止まった。 いつもとなんら変わらない筈なのになぜだかすごく愛おしく感じたからだ。 暫くの間、玄関前で子供達の声を聞いていた。 遥登と優登の話し声と綾登の笑い声。 夕食の美味そうなにおいのする、あたたかな家。 大好きでたまらない奥さんと暮らすしあわせな空間。 しあわせの象徴だ。 「兄ちゃん、次ここのコースしよ!」 「うん。 綾登は応援しててくれるか?」 「がんがれぇ!」 勿体ない、と思った。 もっと聞いていたい。 もっと、もっと。 さしていた傘を閉じ壁にかけると、その隣にしゃがんだ。 綾登の目線より高いが、あの子の見ている世界に近い。 雨の音もにおいも近くて世界が大きく見える。 綾登の世界は、この目に写る世界のように綺麗だろうか。 優登の世界は、こんなに楽しいものであってくれるだろうか。 遥登の世界は、こんなに広く大きなものであってくれているだろうか。 「あっ!」 「おいおいおい。 なんで抜けた!?」 「へへっ」 この世界は美しい。 どんな世の中であっても。 どんな事が蝕む世界でも。 俺の守る世界は美しい。 小学生の作文みたいな事を思った。

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