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第338話
「遥登、なんか落ちたぞ」
長身の男が摘み上げたのは、どんぐり。
境内の灯りに照らされ、コロンとした可愛らしいフォルムが晒される。
「どんぐり…?
遥登のか?」
「あ、多分。
弟が入れたんだと思います…」
「あぁ。
拾ったのか。
トロロかと思った。
楽しそうだな」
コロンッと手のひらに転がされたそれ。
きっと、気が付かない内に末っ子がポケットに入れたのだろう。
スマホを取り出す時に手かなにかに引っ掛かり飛び出て落ちたのだ。
というか、長岡の口からトロロが出るとは思わなかった。
どんぐりとトロロが結び付く。
なんとも可愛らしい思考だ。
「その公園って、近いのか?」
「え、はい。
あの…、“あの公園”です」
「あぁ。
あそこ。
どんぐりの木なんてあったのか。
遥登ばっか見てたから分からなかったな」
サラッと甘い言葉を吐かれ、肌寒いはずなのに顔がアツくなっていく。
「…っ」
「俺とも、どんぐり拾ってくれよ」
「…はい」
「手ぇ、繋いでな」
絡められる小指に自分からも小指を絡ませ公園へと歩き出した。
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