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第382話

お祓いを受けながら参拝をし、御神籤をひくためにそちらへと向かう。 背後を盗み見すると、飛び出た頭が礼をしている。 郷に入っては郷に従っているらしい。 「50円あるかな」 「俺、50円玉2枚あるからひきな」 「やった。 ありがとう」 「どういたしまして」 商店街やその付近の人達が集まるには小さな社務所だ。 いつもは社務所に置かれている幾種類のおみぐみも今日ばかりは、大きなテントの中に居場所をもらっている。 こちらの方が広々と快適そうだ。 50円玉を2枚コロンと入れると適当な1枚を引き抜く。 「やりぃ。 大吉」 「俺も大吉」 「大吉しか入ってねぇんじゃねぇの?」 「いや、混ざってるだろ。 たまたまだよ」 健康も勝負も勉学も、当たり障りのない言葉が書かれている。 油断するな、さすれば結果は出る。 それでも、今年一番はじめの運試しとしては上出来だ。 「優登、先にシュークリーム買っててくれるか。 甘酒も。 1000円で足りるだろ。 やるから」 「それは構わねぇけど」 「頼むな」 紙幣を握らせると三条はお守りを見物にもう一つのテントへと入った。 チラチラと長身を伺う女性に気が付き、そちらを見ると三条も驚く。 神や仏を信じていない恋人がいるのだから。 だけど、その人は何事もない顔で売場を通り過ぎ、トンッと手の甲をぶつけてきた。 「おめでとな」 「っ!!」 小さくだが、確かに降ってくる声に胸がきゅっとした。 あぁ、恋人のこういうところが好きだ。 2人きりで会えるまでもう少しだけ兄弟の時間だが、長岡は長岡でその時間を楽しんでいるらしい。

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