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第733話

早く会いたくて足が急ぐ。 早く会いたい。 だって、今日だ。 長岡が自宅を出たとメッセージを貰って、頃合いを見て家を抜け出た。 ほんの数分さえもどかしい。 「あ、すみません…っ」 自宅前の道路から、商店街へと続く曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。 時刻は真夜中。 誰も居ないだろうとは怠慢だ。 相手の気配にも気付けなかった。 浮き足立ち過ぎだ。 頭を下げると、冷たい空気がその人の纏うにおいを巻き上げる。 「此方こそ、すみませんでした。 恋人に会えるのが楽しみで注意散漫でした」 「あ……」 顔を上げると楽しそうに笑う長岡がそこにいた。 「正宗さん」 「はあい。 早く会いたくて来ちまった」 びっくりした。 それと同時に、とても嬉しい。 長岡は、驚いた顔をしたままの三条の隣に並んだ。 そして、手袋を外すと手を握られる。 途端に三条の尻尾が大きく揺れ、ふへへっ、とだらしない顔になった。 「またあそこの神に宣戦布告してくか。 で、あったかい飲み物買って車でイチャ付こうぜ」 「宣戦布告って……。 一応ここの氏神様ですし、藁として縋ってますし…。 でも、…イチャイチャは俺もしたいです」 「見せびらかすんだよ。 俺がしあわせにしてんだってな」 「それなら良いですけど、喧嘩は駄目ですよ」 「喧嘩なんてしねぇよ。 平和主義者だしな」 約束の証にキスをする恋人とのこの1年は確かにしあわせだった。 神様なんて関係ない。 俺はちゃんとしあわせだ。 その証に自分もキスを落とすと長岡はとびっきりの顔を見せてくれた。 なにかに縋らなくても、しあわせにする事が出来る。 そんな事を学べたこの6年は宝物。 「そうだ。 コンビニでケーキ買って食おうぜ」 「ケーキ!」 「チョコレートのな」 「嬉しいです」 「チョコレートケーキ好きだよな」 「正宗さんが、なによりも1番好きです」 「俺も。 古典より遥登が好きだ」

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