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3-10 それは所有欲?独占欲?
一緒に弁当を食べる、とは言ったものの、先に風呂に入る必要が出来た。流石にこのベトベト状態のままは気持ち悪い。
九重は、〝今日はもう虐めない〟という約束通り、オレの入浴中は自分の寝室に引っ込んでいると宣言してくれた。オレが視線を意識せずに、ゆっくり出来るようにだ。ありがたい配慮にホッと一息……とばかりも居られない。
入ったままの尻尾――コイツをどうにかしなければ。
「それ、今抜いとくか?」
尻尾を気にするオレに、九重はそう窺いを立てたけど、
「いや、オレが自分で……風呂場でやるよ」
オレはそう主張した。九重にやられたら、悔しいけど、たぶんまた……イク。そんな気がする。
床の液体掃除も九重がやるって言ってくれたけど、それも何か恥ずいから、結局自分でやることにした。屈み込み、ティッシュとスプレーで床を拭く。その間にも、入ったままの球体の感覚に苛まれた。オレが動く度、中のそれも蠢いて内壁やオレの苦手な部位を刺激してくる。お陰で一々手が止まった。
「無理するな。やるぞ」
「いや、いい」
オレがぼろ泣きしたせいか、九重が妙に優しい。それが逆にこそばゆい。何かタカみたいだ、なんて思って、たぶんそれを言ったら九重がまた怒りそうな気がしたから黙った。
何でかタカのこと嫌いなんだよな、コイツ。
思い出しついでに、タカが昨日オレの前のマンションを訪ねた件を相談したら、九重は難しい顔をした。
「引き払った部屋、無人だと知れるとマズいから、契約し直してお前がまだ住んでる体裁にしておいたが……いきなり訪ねてこられるのは手の打ちようがないな。風見が来る時、予めアポ取るように言っとけ」
そう言って、九重はオレの前使ってたマンションの部屋鍵を渡してきた。タカが遊びに来る時だけ、そちらで応対するようにとのことだ。
「本当は会うなと言いたいところだが。疑われるのも面倒だからな。仕方が無い」
「いつの間にこんな手続きしてたんだ……。部屋料金は?」
「俺持ちだ。お前は気にするな」
何か、本当に愛人みたいだな。オレ一人囲っとくのに、結構な金使って――何でだろ、と改めて疑問に思った。
オレのことが『ムカつくから壊したい』……そう言ってた割に、ガチ泣きしたら優しくするの、何でだよ。矛盾してね?
九重の考えは、さっぱり分からない。
とにかく、床掃除を終えたら予定通り風呂に入った。――あの難物のツブツブ。最初に意を決して、ゆっくりと引き抜いた。それでも背筋がぞわぞわして、触れてないのにオレの雄までまた反応を示した。勃ったままだと落ち着かなかったので、急遽そっちも自分で抜くことにした。
九重が自室に引っ込んでくれていて、本当に助かった。声や音を聞かれないように、凄く気を遣いながら行為に及んだけど……すぐ近くに九重が居ると思ったら、なんか変に意識しちまって……やたらに感じた。
まるで、九重のことを想いながら自慰してるみたいじゃねーか!! 断じて、そうじゃない!! なんて、誰に聞かせるでもない言い訳を心中で繰り返しながら。
その後、九重の言うように穴の中も洗うべきか、少し迷った。でも、自分で指を入れるのも何か怖ぇし……下手したらまた勃ちそうな気がしたから、止めといた。無限ループじゃん。
だけど、九重の唾液がべっとり付いたツブツブを中に入れたんだよな……うーむ。考えた末に、穴にシャワーを当てた。水圧でまた前が勃ちかけて、慌てて中断した。危ねぇ危ねぇ、無限ループ!!
結局、中を洗うのは諦めて風呂から上がると、九重を呼んでバトンタッチした。九重は何故かいつもより頬が上気して見えた。吐息にも熱いものが混じっていて、やけに艶っぽい様子に、ついドキリとする。なんか、コイツの方が風呂上がりみたいじゃん。部屋で布団被って仮眠でもしてたのか?
九重の入浴中は、今度はオレが自室に引っ込んだ。アイツが全裸で油断してる姿を撮影して交渉の切り札にする絶好のチャンスだとも思ったが……九重が約束を守ってくれたのに、それはフェアじゃないってんで、ステイした。武士の情けじゃ。
九重も入浴を終えたところで、ようやく夕飯タイムだ。マジで腹減った。結局、弁当は風呂だのなんだので冷めた為、温め直した。それでも、やっぱり一人で食べるよりも二人の方が美味しく感じる。……相手がこんな奴でもな。
明日はちゃんと作ろう。献立何にするかな。上機嫌にそんなことを思っていると、不意に九重が話題を振ってきた。
「そうだ、花鏡。お前明日の放課後は学校に残れよ」
「へ? 何で?」
「お前を生徒会室に連れて行く。他の役員達と顔合わせしないとだからな」
――は? 生徒会室? 役員達に顔合わせ?
「いや、だから何でだ?」
すると九重は、とんでもない爆弾発言を繰り出した。
「お前も明日から生徒会の一員になるからだ」
「……はぁあ!?」
「考えたんだ。同じ生徒会役員なら、学校でお前と話していても不自然じゃないだろ? 仕事の話をしてるってことで、周囲の目を誤魔化せる。……これでもう、風見にも邪魔されない」
不敵に微笑む九重。オレはあまりの衝撃に口をパクパク鯉のように開閉して、暫時固まった。
生徒会役員? マジで言ってんのか?
「……それって確か、普通は立候補して、演説して、投票結果によって選ばれてなるものだろ? そんないきなり、何もしてないオレがなれる訳……」
「大丈夫だ。生徒会長である俺、直々に推薦という形で決定した。学校にももう話は通してある」
しょ、職権乱用じゃねえか!!
「いや、つか!! オレ、読モの仕事も入るし!? カフェバイトもしてんのに、そんな時間取れる訳っ!!」
「お前のバイトは週末金土日の三日間だろ。平日は基本空いてるな?」
だから、何で把握してんだよ!! オレのスケジュール!!
「それに、お前の役割はただのマスコットだ。大して仕事も無い。雑誌の撮影が入ったら、勿論そっちを優先していい。安心しろ」
「マスコット……? そんな役職、あったか?」
「正確には〝広報〟だ。生徒会報やホームページで活動アピールなんかをする役職だな。これまでは書記と庶務がその辺もやってくれていたが、彼らの負担を軽減する為に役職を増やす、って建前だ。お前モデルだし、SNSでのフォロワー数も多いからな。宣伝塔には持ってこいだろ」
そうやって、他役員や教師陣を納得させたんだな?
「まぁ、実際の仕事はこれまで通り書記と庶務に手伝って貰え。お前はただ、笑顔で宣伝写真にでも写っとけばいい」
「だから、〝マスコット〟ってことか……」
「そうだ」と、九重はしたり顔で頷いた。
「つーか、オレと学校で話すって、それだけの為に、またこんな大掛かりな……?」
攫 って囲って、金と権力を使って――そこまでして。
「言っただろう? 俺は、〝自分のものは手元に置いておきたい主義〟だと」
堂々と宣う九重の満足気なドヤ顔に、オレはひたすら圧倒されて言葉を失った。――逃げられない。コイツからは。改めて、そう悟った。
【続】
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