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4-7 可憐な花には棘がある ◆

「あ、ああ遊び相手って、な、なな何をし」 「分かってるでしょう? そんなの」  震えてどもるオレの唇に、四ノ宮の綺麗な指先が〝しーっ〟と塞ぐように押し付けられた。 「安心してください。会長達もすぐには戻って来られないように、園芸部の温室は徹底的に破壊してきましたから。……ゆっくり遊べますよ」  ――!! 「あれって……四ノ宮が!?」  四ノ宮は肯定の代わりにニッコリと微笑んだ。オレは頭を殴りつけられたような気分になった。え……じゃあ、なんだ? この状況になったのは、偶然じゃなくて……初めから、四ノ宮の計算?  パシャ、と機械音がして、ハッとしてそちらを見る。四ノ宮が構えた携帯カメラで、オレを撮っていた。 「いい表情( かお)ですよ、トキさん。困惑と絶望の入り交じった、生々しい素の顔……いつもの取り澄ました笑顔なんかよりも、よっぽど魅力的です。貴方のそのお人好しの仮面の下の、醜くドロドロした汚ったない本当の顔……もっと、僕に見せてくださいよ」  ゾッとした。刹那にして全身のうぶ毛が逆立ち、戦慄が駆け巡る。本能で分かる。コイツ……たぶん、九重よりも、ヤバい……!!  スッと、四ノ宮の掌がオレの頬を包むように撫でた。ひんやりと、冷たい感触。ぞくりと身を竦めた。 「怯えているんですか? 可愛らしいですね。トキさんって本当、意外と純情ですよね。一々僕にときめいてくれるから、面白くって仕方なかったですよ」  ふふふっ……耳元で軽やかに笑みを零して、天使のように愛らしい少年は謳うように語る。 「女だと勘違いさせたまま、誘い込んで逆にぶち込んで驚かせるのも楽しそうかなって思ったんですけど、トキさんウブ過ぎて誘っても乗って来なさそうでしたしね。……ねぇ、トキさん」  突如、耳に激痛が走った。 「()っ!?」 「会長とはどこまでイってるんですか? もう最後までヤっちゃってますか?」  愉快げな笑みを漏らしながら、四ノ宮がオレの耳に舌を這わせる。さっきはたぶん、噛まれたんだ。もしかしたら、血が出てるかもしれない。その血を啜るように、執拗に痛みを感じた箇所を、四ノ宮は(ねぶ)る。――まるで、吸血鬼だ。  四ノ宮はもう片方のオレの耳を手で塞いで、わざとべちゃべちゃと下品な音を立て始めた。水音が直接鼓膜を嬲る。脳神経まで揺らすような音の責め苦に、オレの心は震えた。首を捻っても追ってくる。逃れられない。 「――や、やめろッ!!」  叫んだ直後、口に何かを突っ込まれた。――指だ。四ノ宮の。三本の指が一気に奥まで到達し、反射的に嘔吐( えづ)きを覚える。 「静かにしてください。あんまり騒ぐと、誰かに気付かれちゃうかもしれませんよ?」  忠告と共に、四ノ宮は口中で指先を動かした。オレの喉奥を抉るように掻き回して、咥内を蹂躙する。苦しい。喉が。息が。嘔吐いても、吐き出せない。ずっとそこにある異物感。視界がじわりと涙で滲んだ。  ぐちゅぐちゅ、音がする。オレの唾液がかき混ぜられる音。濡れた粘膜を擦りながら、指先が動き回る。背筋がゾクゾク震えた。目の前にチカチカと星が散り始めて、瞼を閉ざす。 「あれ? トキさんもしかして喉奥犯されて感じてます? ……うわぁ、こんな所でも善がるなんて、随分ドMビッチなんですね。あの読モのトキさんが。知らなかったなぁ」  四ノ宮の嘲る声が聞こえる。「ファンの人達が知ったら、どう思うでしょうね?」――やめてくれ。それだけは。  瞼を持ち上げると、懇願するように見上げた。目が合い、四ノ宮は何処か興奮したように喉を震わせ、爛々とベージュの瞳を輝かせて笑みを湛えた。――悦んでる。オレの惨めな姿を見て。  突然、口中から指が引き抜かれた。唾液の線が幾本も糸を引いては中空で途切れ、オレの口元を汚す。途端に、激しく咳き込んだ。肺が空気を求めて吸おうとするのに、気道に流れ込んだオレの唾液が蓋をして、上手に呼吸が出来ない。苦しくて、また涙が出た。  びちゃり、濡れた指先に顔を掴まれて、ぐいと上を向かされる。 「はい、チーズ」  パシャッと、機械音。また写真を撮られた。四ノ宮は拭うようにオレの唾液で汚れた手を首筋に擦り付け、そこから更に胸元に滑らせては、既に固くなっていたオレの胸の突起を、いきなりきゅっと強めに摘んだ。走り抜ける痛みと電撃。「ひッ」と情けない声が喉から漏れた。  構わず、四ノ宮はオレの突起を指先で捏ねくり回す。痛い。じんじんする。取れる。取れちゃう、オレの乳首。  乱暴に与えられる刺激に片側が翻弄されている間にも、もう片側では四ノ宮の舌がゆっくりと肌の上を這いずり始めた。つんつんと舌先でオレのもう片方の胸の突起をつついては、直後ぱくりと口に含まれる。びくん、と背が反った。  おぞましい程淫猥な音を立てて、先端が吸われる。吸われながら、舌先で表面を舐られる。両側からバラバラな刺激が襲って、オレの頭は混乱した。  やだやだをするように首を左右に振るが、解放はされない。手で払い除けようとしても、鎖がガチャガチャ言うだけで。届かない。  次第に、強制的な快楽が身体を支配し始めた。震える。昇る。何かが、来る――。  拒絶の言葉を吐きたいのに、声を出したらまた喉を犯されそうで、本能的な恐怖から自身のシャツの襟首を噛み、必死に声を押し殺した。それでも、知らず嗚咽が漏れる。――やめろ、やめてくれ。こんな惨めにイきたくない。  だけど、四ノ宮は容赦しない。オレが頂に上り詰めて仰け反りながら果てても、離してはくれなかった。達したのに、続行される行為。脳が溶かされる。怖い。怖い。何で。何でやめてくれない。 「やめ……っオレ、もぉィっ、た……!」  イったってば! やめろよ! 「知ってますよ? 何度でもイけばいいじゃないですか。好きなんでしょ? 虐められるの」  違う、違う。そんな訳ない! 「でも、あんまり悠長に遊んでる時間もない、か」  ぽつりと、四ノ宮が零した。もしかして、終わるのか? 一縷( いちる)の希望がオレの心に湧いたその時――突如、視界が回転した。  ガシャンと激しい音を立てて、身体が床に投げ出される。ぶつけた衝撃に、息を呑んだ。遅れて、四ノ宮に椅子ごと引っ繰り返されたのだと理解する。気付けばオレは、うつ伏せになって背に椅子を背負っていた。  その椅子を剥がされるように、鎖で繋がれたまま頭上に両手をバンザイさせられた。鎖が捻れて短くなり、手首が銀環ごと頭上の重石に引っ張られる。  全身のあちこちが訴える痛みに気を取られていると、急に腰を掴まれた。抱き着くように下に回り込んできた四ノ宮の手が、オレのズボンのベルトを緩めに掛かる。直後には、ズッと下着ごと布が全てずり下ろされた。肌に冷気を感じて、無防備に自身の下半身が剥かれて晒されたのだと悟る。  パシャリ、また音がした。撮ったのか? オレのこんな姿を?  羞恥を感じる暇さえ与えられずに、再び腰が掴まれ、引き寄せられる。オレの臀部――尻たぶの中央の、蕾。そこを指先で撫でられる感覚に、ぞわりと背筋が粟立った。 「慣らしてませんけど……トキさん淫乱ですし、挿入( はい)りますかね」  耳を疑うような恐ろしい言葉が、後ろから降ってきた。

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