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第50話
身体を倒されて、静は心の肩を軽く叩いた。
「…見て」
静はそう言って、両手を広げて心の前に身体を曝す。心はそれを見て、首を傾げた。
まぁ、そうなるのも無理はないなと静は笑った。
「胸、ないよ?言っとくけど」
「知っとる。俺にもあらへんわ」
つーっと心の長い人差し指が鎖骨をなどり、肩のラインまで指を踊らす。ふっと小さく息が漏れて、それに心が目を細めた。
肌理の細やかさに満悦至極。このまま喰らいそうな、腹の底のどす黒い欲望を押し込める。
乱暴にしそうになる。それもそうだ。ここまで我慢することなんて一生にないこと。有り得ないと思っていたことだ。
心はそう思いながら、舐める様に静の身体を眺めた。
「心、怖いんだけど。俺」
率直な感想。怖いものは怖い。
男同士で今から何をするのか考えれば、怖いというのが正直なところ。
男専門の店に売ると言われ、その店の説明を散々されたが、心と今からしようとしているのがそんな悪趣味なプレイじゃないことは分かる。
でも、怖いのだ。それを包み隠さず言うところも、静らしい男らしさだ。
「俺も、怖い」
壊しそうで。という言葉は喉元に置いておいて、心はニットカットソーを脱ぎ捨てると静の顔の両脇に手をついた。
力強い双眸と、静だけが分かる心の幼さのある隙。そっと髪に触って、その猛禽類を彷彿させるの瞳の輪郭をなぞった。
その手を取られて、甲に唇が当たる。
「きっと、もう、一生、手離せん」
心が呟き、口づけた。深くなる口づけに、戸惑いながらも心の舌を迎え入れる。
それに心が少し笑うので、バチンと背中を叩いた。
舌を絡ませて、口の内側をぐるっと舐められる。ふっと鼻から抜ける甘い声に気を良くしたのか、舌の裏に舌を差し込まれた。
口の中ってこんなに気持ちがいいのかなんて、頭の片隅で冷静な自分が思う。それが静の羞恥を更に増した。
溢れ出る唾液が重なる唇の隙間から漏れて、静の首を伝う。
目蓋が震えて、涙が出そうになって、それを堪えるみたいにぎゅーっと目一杯、目蓋に力を入れた。
重なる身体の熱さに、ひどく興奮している。
こうして誰かと裸で身体を重ねたことなんて、静には皆無なのだから仕方がない。
重ねられた固い、鋼の様な身体が焼ける様に熱くて、身体を捩ると唇が離れた。
「ん…っ」
視界がぼやける。目が潤んで、全身に力が入らなくて。
ぼんやりしているとジーンズに手がかけられた。
「ぁ…し、心っ」
もう、待てもやだも聞いてくれない。その証拠に、それは一気に剥ぎ取られベッドの下に放られてしまった。
見なくても、触らなくてもわかる。熱が集中して、形が変わっているそこ。暗い部屋でも、目が慣れれば見えるはず。
今だって、目の前の心の顔ははっきり分かるほど。
「…ん?」
どうした?みたいな顔をされ、首に顔を埋めてちゅっと吸われる。
それがゾッとして、腰をくねらした。すると心はそのまま静の中心の熱を、ぎゅっと握った。
「…う、わ!!い、あ…!いき、なり!」
「触りますとか、言うて欲しいんか」
くちゅっと一擦り。それだけで腹の奥底から何かが、押し上げてきそうな。
「そ、そんな…ん、言ったら、…噛む!!」
噛むってこの状態でか?と自分に問いながら、心の首に腕を巻き付けた。
「か、顔、見んな!…あっ!」
返事をするように、また一擦り、そこからはどんどん扱かれる。
はぁはぁと息があがり、それを耳元で聞かされる心も我慢がならないとばかりに、静の耳を舐めたり噛んだり。
「し、心、…うっ!それ、そ、…そんなしたら…っ!あ、ぅ」
「…イキそう?」
熱の混じった声がダイレクトに鼓膜に伝わり、とぷり、蜜を吐き出す。
心の扱く手に合わせて、卑猥な音は大きくなる一方。
それほどに興奮して先走りを零しているんだと聴覚で知って、いやだと思うよりも快感が増した。
性には疎い方かもしれない。今までは性欲よりも疲労が大きくて、そんな事をすることすら億劫で…。
「…ふっ…ううっ!!」
腹の奥底がツキッと痛くなって、静は心の首から腕を外して己を扱く心の腕を掴んだ。
扱く腕を掴んだせいで、静の腕も同じ様に動く。
「…やっ!!!」
それがイヤで静はパッと手を離した。
心の長い指が器用に静の熱を扱く。親指の腹で先端を撫で回しながら、雁首に指を掛け擦る。
「は、あああーっ!心…っ!イク、イク…っ!」
こういう経験が浅い静が、目の回る様な快感に翻弄され白い足を心の身体に巻き付けた。
心はその静の首を獣の様に舐めた。背骨に電流が走って、思わずまた心の首に腕を巻き付けた。
そして心が少し強めに静のペニスを扱きあげ、先端をぐりっと抉ると静が高い声で啼いて心の手に白く濁ったものを吐き出した。
ひどい虚脱感。びくびくと身体が震えて、心の首に回した手が力なく外れた。
「静…」
呼ばれて、キスで応える。
「意識、飛ばしそうやな」
ククッと笑うので、やはり力の入らない手でぱちんと腕を叩いた。
経験豊富なオマエとは違うからな!という憎まれ口を叩く余裕もない。依然、心拍数が上がりっぱなしだ。
にゅるり。突然、ぐちゃぐちゃのペニスを握られて慌てた。
「うぁっ!ちょっと!!」
「あ?セックスに休憩なんかねーぞ?」
至極、当然の様に言われて、ぐいっと片足を抱え上げられた。
ひっ!と声が出て、その足を外そうともがく。
「ちょ!…心!!」
その片足が心の肩にかけられて、もしやと思った時には萎えたペニスをぱくり。喰われた。
「う、あっ…ぁ!」
ちゅっと吸われて、白い足が跳ねた。口の中は想像を絶する熱さで、下半身から溶けそう。
巧みに動く舌に、萎えたペニスがすぐに固さを取り戻す。先端を舌で抉られ、雁首に歯をかけて扱く。
味わったことのない快感に腰が落ちて、叫びそうな悲鳴を手で押さえた。
「うぁ、あ…っ!う…ん!!!!」
ほろり、涙が溢れて、悲しくもないのに悲しくなった。
どうしても抵抗がある。それもそうだ。静は同性愛者ではないからだ。心も同性愛者ではないはず。
どちらもそうでないのに、今、しようとしている、している行為はまさに同性愛者のそれ。
覚悟をして来いと言ったつもりが、いざこうして行為に及ぼうとしてしまうと身体が、頭が驚く。
混乱して、頭が、気持ちがついていかない。
「…静」
ふっとペニスを離され、ホッとした。泣いた顔を見られたくなくて、顔は手で隠したまま。
「う…ぁっ!!」
顔を隠すことを責める様に内股に、ちゅうっと吸い付かれ、驚く。
ちらっと下を見ると、ニヤリと笑われた。
「別に、背徳感とか感じることあらへんし。前戯やて」
ぺろりとペニスを舐め上げられ、腰が震えた。
スゴい絵面だな!おい!!と思いながら、押さえられてない方の足で心の背中を蹴った。
「暴力反対」
笑って、心がまたパクリとペニスを銜えた。
それにガクンと首が落ちて、何だか、もういいやと思って快感に忠実に従うことにした。
双嚢を手で揉まれて、口を窄めながら吸われる。
どこで覚えたの、それ!?と言う様な絶妙なテクに脳が震えた。
「ふっ…!んんっ!!…し、心っ!!」
ゆるゆると吸われたり、時にきゅっと吸われたり。喉の奥底まで迎え入れられたり。
そんな刺激を味わったことのないペニスはただ震えて、蜜を溢れ出す一方。まるで、異次元。
右だと思ったら急に左、上。それぐらいに目紛しい変化についていけない。と、波は急激に来た。
ぐわっと腹の底から来て、出るとかダメとかそういう言葉を一切言う隙を与えずに来た。
「…っ!!!」
どくんと身体が跳ねて、目が眩むほどの快感。
喉を反らして身体を強ばらせ、とぷっと白濁したものを吐き出した。
「…ゴホッ。静、…せめて出るとか言えよ」
心が口を拭いながら、起き上がる。それをぼやけた視界に捕らえ、やはりドカッと心の腕を蹴った。
「俺、初心者…」
何それと思いつつ、初心者は初心者。
手でイカされて、始めてのオーラルセックスに身体はクタクタだ。
「…何で、そんなこと出来るんだ」
「あ?何が?…ああ、上手過ぎるって?」
キッと睨んだが蹴る余力はなく、息が整うのをただ待った。
「自分がエエとこ攻めるだけやろ」
そんなとこ、どこか分かんないよ。じゃなくて、男相手に何でそんなことって意味なんだけど…。
気怠さで何も口に出来ぬまま、もう何でもいいや…と、目を瞑った。
その静の上で心が腕を伸ばして、ベッドの横のナイトテーブルの引き出しを開けた。
「…何?」
「あー、これでええか。ハンドクリーム」
そんなもの何に使うんだと訝しんで見ると、心はそれを自分の掌にとぷっと出した。
「うわ!勿体ない!」
「あ?ハンドクリーム渋って、苦痛得るんか?」
「は?苦痛?」
首を傾げると、心は静の細い足首を掴んでハンドクリームを塗った手を、尻に当てた。
「ひっ!!」
冷たさに驚く。
そして、そのまま誰も触れたことのない窄まりに指の腹を当てられ、ぎょっとした。
「し、し、心っ!!」
「あ?」
慌てる静と対照的に落ち着いた様子の心は、そのままぐっと指に力を入れて静の中にゆっくり指を埋めていく。
ハンドクリームのおかげで引っ掛かりもなく、それはずるっとスムーズに奥へ進んで行く。
だがそのスムーズさとは違い、違和感、不快感がひどくて静は顔を顰めた。
「や…だぁ…」
「ま、初めはそうやろな」
くちゅっと妙な音がする。それが窄まりに塗られたハンドクリームと入り込んだ指が奏でていると思うと、やりきれない。
うーっと唸って、身体を捩って目に入った大きなピローを抱き締めた。
掴まれた足首を引っ張られ、心が自身の肩に乗せる。ぱっかり開かれた足。
部屋が暗くて助かった。煌煌と灯る灯りの下なら、絶対、羞恥死する。
「気持ち、悪い…」
身体の中で指が蠢くのが分かる。それが、ただ気持ち悪い。
ぐにゅぐにゅと、排泄を促しているような動きが堪らない。
「…アングル的には、エエ眺め」
言われ、肩に乗った足で心の背中を蹴った。
そんなことをしたところで、何も変わらない。どうやっても気持ち悪いのだ。
本来、そんなことをする場所じゃない。大多喜組で聞いた話じゃあ、慣れれば死ぬ程に善がると聞いたが絶対嘘だ。
じんわり涙が浮かんできて、ピローをぎゅーっと握りしめたときに痛みにも似た感覚が襲った。
「…はっ!?」
痛い!と思ったら、次は恐ろしくなる程の波。ざーっと一気に肌が粟立って、思わず心の背中を蹴った。
足が、勝手に跳ね上がったのだ。
「あ…?」
驚いて心の顔を見ると、心がニヤリと犬歯を見せて笑った。
それにただならぬ恐怖を感じて静がおずおずを上に這い上がろうとすると、腰を掴まれ、ぐっと戻された。
「初めだけ」
「…な、何が」
「ここ」
ぐりっと、そこを指で擦り上げられると、目の前がチカチカした。
一気に星が目の前を流れて、散らばるようなそれに悶えた。
「そっ…!そこ!!いやだ!!」
「いややない。やって、ここは悦んどる」
ぎゅっと中に入る反対の手でペニスを握られ、唖然とした。
「な…」
なんで。そう聞きたいくらい。
2回も放ったそこは、物欲しげに心の手の中で先端から蜜を流していた。
「今までで、一番、固いかもな」
「ばっ!!」
がんっと思いっきり背中を蹴ると、仕返しとばかりに、またそこをぐりっと痛いほどに押された。
「ああああ!!!!」
びくびくっと身体が痙攣して、ピローに縋り付く。
「ほんま、足癖の悪い」
文句を言いながらも、嬉しそうにそこを弄られると喚きたくなる。だが、腹の奥底から見えない熱が溢れ出て来そうで怖い。
どんどんどんどん、マグマの様にどんどん、熱が沸騰して来そうで。静はそこを攻められながら、その熱に戸惑いながらも小さく息を吐いた。
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