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読者諸氏に、先に告げておく。
これは、『悩める原くん』のお話である。
***
金曜放課後の保健室に、控えめなノックの音が響いた。
「失礼します……」
振り返ると、真面目そうな生徒が、強張った表情で棒立ちになっていた。
上履きの色を見るに、中等部の3年生だ。
「どうしました?」
「あの、石田 先生。相談があるんです。……石田先生にしか、相談できなくて」
「かまいませんよ。こっちで話しましょうか」
僕は笑顔で手招きし、ベッドに座らせた。
カーテンを引けば、簡易カウンセリングルームだ。
僕は、中高一貫の男子校で、養護教諭をしている。
落ち着いた進学校なので、問題を起こして大怪我をするだとか、保健室でサボるような生徒はいない。
ただ、受験や親との関係で悩む生徒が多く、3年生がこうして相談にやってくることはよくある。
僕の仕事は、怪我を手当てしたり、休ませるだけじゃない。
むしろ、それ以外の――生徒の心に寄り添うカウンセラー的な役割が、求められている。
「ええと、クラスと名前を教えてくれますか?」
「中等部3年C組の、原 です」
「顔色があまりよくないですね。大丈夫ですか?」
「……最近あんま寝れてないので」
原くんは、だるそうに、長いまつ毛を伏せた。
「悩み事のせいですか?」
「はい。……実は、その、夜になると……え、エッチなことばっかり考えちゃって」
と言った原くんは、耳や首筋まで真っ赤になっている。
「恥ずかしがることないですよ。自然なことなので」
「……自然、ですか?」
「ええ。子供が大人になるまでの成長に、必ず必要なことです。原くんだけがそうなってるわけじゃないですし。でも、眠れないのは心配ですね」
僕がひとつひとつ伝えると、原くんは少し安堵した表情を見せた。
「エッチなこと考えちゃうのは、……その、巨乳のおっぱいとかじゃなくて、自分のちんこに興味あって。つい気になっていじくっちゃうから」
「なるほど」
僕は原くんの向かいにしゃがみ、少し下から見上げる体勢になった。
「痛みや腫れなどはない?」
「ちょっと触りすぎて、ヒリヒリするときはあります」
「触るときは、ただ触るだけ? 射精までするのかな?」
「最初は気になって触るだけなんですけど、だんだん気持ちよくなってきちゃって、結局イクまでしちゃいます」
「それがどのくらいの頻度あるのかな?」
「……毎日、で、酷いと、1日4回くらいしちゃうときもあって」
原くんは恥ずかしそうに目を逸らした。
僕は安心させるように微笑んだ。
「大丈夫、4回程度なら、全く正常の範囲内だと思いますよ。毎日7回ずつするような人もいますし、『何回までしかしちゃダメ』という決まりもありませんので。ただ」
「ただ?」
「ヒリヒリというのが心配ですね。雑菌が入っていたりしたら、そこから化膿してしまうこともあるので」
「え……っ、どうすれば」
怯えた様子で、ズボンの両足を擦り合わせる。
「もし嫌じゃなかったら、先生に見せてもらえますか?」
「あ、はい……」
僕は腕時計を見た。15:56。
「……と思ったんだけど、ごめんね。16:00までに提出しないといけないものがあって。急いで書いてしまうから、少し待っててください。ええと」
机の上の棚をガサゴソと漁り、リーフレットを手渡した。
「これは?」
「マスターベーションの基礎知識です。読んでみれば、悪いことをしているわけじゃないと分かると思いますので」
「分かりました」
一旦原くんをひとりにし、カーテンで仕切ったところからは見えない位置で、さっさと書類仕事を終わらせる。
原くんはじっとしてリーフレットを読んでいるようで、でも、たまにゴシッと衣擦れの音がするから、勃起を我慢しているのかもしれないと思う。
僕は保健室を出て、隣の職員室の様子を伺い、すぐに戻ってきた。
外出中の札を掛け、ドアをロックする。
カーテンを開けて、うつむく原くんに声をかけた。
「お待たせしました。平気?」
「すいません。ちょっと、その」
もじもじする股間が、盛り上がっている。
「真面目な教材なのに、見てたらちんちん触りたくなっちゃって……」
「見せてもらっていいですか?」
「はい」
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