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10年前の悲しい記憶
「そんなことがあったのか」
「根岸さんがいなくなった日のことはいまも鮮明に覚えている。言うことを聞かなかったから根岸さんが帰ってきたら怒られる。足で蹴られて、顔をビンタされると思ってびくびくしながら押入れに隠れていたんだ。閉めたはずの玄関の鍵が勝手に開いて、前日に見た男たちが土足で家のなかに入ってきたんだ。ブツを探せ、金が隠してあるはずだ。男たちが家のなかをしっちゃかめっちゃかにしながらなにかを探しはじめた」
そこで奏音は一旦言葉を止めると、目を閉じて深く息を吸った。
「根岸のガキに顔を見られた。面倒なことになるから見つけしだい殺せ。男の一人がそう言ってた。見付かったら殺される。俺、怖くてガタガタ震えながら布団を頭から被っていた。すっーと押し入れが開いて、男が俺が隠れているのに気付いた。その男は湯山、もうこの家には誰もいない。ブツはあった。そう言って俺の手に飴を握らせてくれて、お利口さんだな、偉いな。さすがは楮山の息子だな、そう言い残してすぐ閉めてくれた。その人がいなかったら間違いなく殺されていた」
当時のことを思い出したのか奏音は小さく震え上がった。
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