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決着をつける、

ちょうどその頃、看護師に化けた信者の男がワゴンを押しながら奈梛が入院している病室に向かっていた。 廊下をパトロール中の警備員とすれ違ったが怪しまれることなく、あっという間に奈梛の病室にたどり着いた。 男の右手の小指は第一関節から上の部分が欠損していた。 愛する教祖さま、まゆこに身も心も捧げ、忠誠を誓うため、命じられるまま小指を切り落としまゆこに献上した。 奈梛を殺したら、幹部の椅子が待っている。 まゆこさまの寵愛を一人占め出来る。 男はほくそ笑みながら扉をゆっくりと開けた。 「検温の時間……あれ?」 ベットはもぬけの殻だった。 病室を間違えたとか?いや、そんなまさか。 男は慌てて扉を開けて番号を確認した。 何度確認しても間違ってはいなかった。狐につつまれたように呆気に取られていると、 「あの……私の部屋になにか用ですか?」 車椅子に乗った青年に声を掛けられ、ワゴンを放置したまま逃げ出した。 「確保!」 病室に隠れていた警察官が一斉に飛び出すと男を取り押さえた。 「くそっ。罠だったか」 男は悔しそうに地団駄を踏んだ。 「おやっさんと卯月さんを出し抜こうなんぞ100年早いんだよ」 車椅子の青年がゆっくりと男に近付いた。

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