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#14 一緒行こ

*  先生が次の授業内容を予告して、それと共に終業のチャイムも鳴り渡り、四時間目の日本史は終了した。  昼休みに沸き立つ教室の中、僕は無人のままだった窓際の席へ瞳を向けた。  結局、彼は帰って来なかった。  期待は薄かったけど、気を持ち直して途中から戻って来るのではないかという淡い可能性も考えたが、それも叶わなかった。 ——戻って、来るのかな。…………待ってるんだけど。  日本史の後始末をしながら、祈るように思って前方のドアの往来を窺い、()の人影を探してしまう。そこへ、 「あ、病弱な旅人が帰って来た」 「何? 病弱って」  後方のドアから、涼やかなあの声が耳に届き、振り向けば柚弥が、教室に入って来るのが見えた。  待っていた。良かった。——……戻って来てくれた。  安堵する僕の向こうで、柚弥は瞳を伏せながらこちらに近づき、僕の後ろを通過して、自分の席に着いた。  昼食を買いに行くのか、脇のバッグからコバルトのモノグラムの長財布を取り出し、それをポケットに挟み込む。  その一つ一つの動作を横目で映しながら、僕は詰まっていた息をひそかに吐いた。  四時間目の間、ずっとどうするかを考えていた。  彼が戻ってきたら、どうするのか。何を伝えるのか。そして、これからどうしたいのか。  答えは決まっていた筈だ。  臆する胸を打つように、僕は席を再び立ちそうな彼に声を掛けた。 「たちば……っ、——君……!」  柚弥は、こちらを見た。  吸い込まれそうな瞳の奥が、僕をとらえて不安げに揺らめいている。 「——お昼……、 一緒行こ……っ!」  言ってしまった後で、脱力した。  一緒行こって、何だろう。一応、高校生男子なのに。  もっと誘い方、ないのかと、つい遠くを見遣りながら声もなく苦笑していると、  柚弥は、『一緒行こ』の直後からぎりぎりまで瞳を見開いていたが、 やがてその驚きの表情が、きゅうっと緩まって、この上もなく嬉しそうなそれへと、変わっていった。 「…………行くーーっ……!」  文字通りの満面の笑みで、そんな顔してくれるのかと、眩しくて、僕も瞳をほそめて笑った。  それと同時に、そんな顔をさせてしまう程に、これまできっと沈む思いをさせていたのだろうと。  ぴかぴかに輝く彼に向かう僕の顔も、きっと泣き笑いのようになっていたに違いなかった。

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