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6 七夕デート
今日はウノくんと外で待ち合わせデートだ。一緒に暮らしているのに仕事終わりにわざわざ外で待ち合わせるのは、どうしてか心躍った。
『ダーさん……っ、今どこぉ』
スマホから聞こえるウノくんの声は、走っているんだかなんだか、気持ち弾んでいる。走っているウノくんを見る機会がこれまでなかったので、なんとなく見たくなって辺りをきょろきょろと見回すが、とりあえず俺の視界に入る場所に姿はない。
「商店街の入り口の、七夕飾りのあるところ。ウノくん、走らなくていいよ? ゆっくりおいで」
『せやかて……っ、ダー……さん、待たせたら悪い……しぃ』
はあはあと喘いでいるので、なんだか違うことを想像してしまい落ち着かなくなる。だが外でこんなことを考えるのは公序良俗的にどうなんだろう。まあ、態度に出さなきゃいいんだろうが。
「大丈夫、俺はいくらでも待つか……ら」
「――ダーさぁん……見っけ」
急に耳元でウノくんの声が聞こえ、背後から抱きつかれたので俺はびくりとした。どのくらい走ってきたのかわからないが、ウノくんの表面温度がだいぶ上がっていて、うっすら汗をかいている。
「はっ、ごめん外なのに。はしたないなぁ」
人目も憚らず抱きついてしまったことに気づいたウノくんは、今更ながらに顔を少し赤らめてすっと俺から離れた。
別にいいのにそんなこと。ウノくんは俺の大切なウノくんだ。誰に見られたところで構わない。所構わずいちゃいちゃしたい。
トリマーを職業としているウノくんは、会社員である俺とは違って、スーツを着たりはしない。大体Tシャツにデニムパンツ、スニーカーというラフな恰好をしている。ウノくんは何を着ても可愛い。しかし今日は七夕デートだからか、明るい色のカッターシャツに洒落た柄のネクタイなんで締めていて、なんとなく新鮮だった。
「腹減ったろ。レストランを予約しているから、そろそろ行こうか。……そのあと、お泊りしよう」
「お泊りて……もったいない」
「たまにはいいだろう。……嫌?」
明日は二人とも休みだ。一緒に住んでいるのに不経済と言われようが、普段とは違うシチュエーションを演出して愛を深めたい。
「嫌……や、ないけど」
可愛いよウノくん。今すぐにでも抱きたい。いやがっつくな俺。
「ところでダーさんはスーツの上着、暑ないの? 脱いだらええやん?」
ウノくん特有の甘えた関西訛りに、俺の頬が緩む。こんなの慣れだがウノくんが脱がせてくれ。思わず言いかけたが今は堪える。
「せや。お店行く前にぃ、短冊に願い事書こ? 俺なぁ、密かに特製短冊作ってみたんよ。ほら、ダーさんの分も♡」
「短冊? ――ああ、これよく見たら願い事いっぱいついてるな。つけていいのか」
商店街に飾られた七夕飾りには、いろいろな願い事がくくりつけられていた。書くスペースとしてテーブルと筆記用具も設置されていた。
「せやで。はい、どうぞ」
にこにこと満面の笑みを浮かべたウノくんは、特製だという短冊を俺に寄越した。どのへんが特製なのかと、渡されたそれに視線を落とす。
「ウノくんが描いたの?」
「かわええやろ? にゃーたんやで」
そこには一緒に飼っている猫と思われるイラストが描かれていた。シンプルな線は意外と特徴を捉えていて、なかなかに上手だ。
「願い事……か。ウノくんは何を書くんだ?」
「もっと上手になれますように」
何が? 絵かな? トリマーの技術とか?
「ダーさんは?」
「ウノくんとずっと一緒にいられますようにって」
「……ずっと一緒におれるん? うれし」
ウノくんは上目遣いに俺を見た。くっそ可愛いな大好きだ。いくらでも一緒にいるぞ。
「俺もっと上手になるからなぁ、ダーさんに喜んで貰えるように♡」
ウノくんは俺の手をそっと握って、照れたように微笑んだ。……あ、そういうアレ? 上手だろうが下手だろうが俺は問題ない。食事すっ飛ばしていろいろしたいが我慢した。
来年も、再来年も一緒にいられますように。
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※Twitterでの七夕タグで書いたものになります
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